第8章 第8章 口下手な彼は彼女と暮らしたい 【鬼滅の刃 冨岡義勇】
冨岡邸での同棲生活が始まってから、いのりの日常は穏やかで、それでいて熱を帯びたものに変わった。
「義勇さん、そんなに怖い顔をしなくても大丈夫ですよ。しのぶさんの所へ行くだけなんですから」
玄関先で、いのりは苦笑しながら自分の袖を引く義勇を振り返った。
義勇は無言のまま、彼女の腰をぐいと引き寄せ、まるで離したくないと言わんばかりに抱きしめる。
「……一人は危険だ。あの時も、少し目を離した隙に……」
「わかっています。だから、こうして義勇さんが付いてきてくれるんでしょう?」
あの一件以来、義勇の独占欲と過保護ぶりは加速していた。
たとえ昼間の街中であっても、彼はいのりを一人で外出させることを頑なに拒む。
任務がない日は必ず影のように寄り添い、少しでも距離が開けば、すぐに彼女の細い指を絡め取った。
「あらあら、今日もお揃いで。冨岡さん、少しは彼女を解放してあげたらどうなんです? 監禁罪で訴えますよ」
蝶屋敷の縁側で、しのぶが茶を啜りながら皮肉を飛ばした。
その横では、いのりがアオイやなほと楽しげに談笑している。
「……安全を確保しているだけだ」
「はいはい、左様ですか」
義勇はしのぶの言葉を無視し、少し離れた場所で胡坐をかきながら、視線だけは片時もいのりから逸らさない。
その徹底した監視ぶりに、屋敷の中を通りかかる隊士たちは涙を呑んでいた。
「ああ……いのりさん、今日も冨岡さんと一緒だ……」
「俺たちの癒やしの花が、水柱のものになっちまった……」
「……何か言ったか?」
義勇が冷徹な視線を向けると、隊士たちはヒッと悲鳴を上げて逃げ出していく。
かつていのりに貢物をしていた者たちも、今や水柱の目が怖くて近づくことすらできない。
「ふふ、皆さん相変わらずですね。でも、いのりさんが元気そうで安心しました」
「はい。義勇さんが毎日、とても大切にしてくれるので……」
いのりが少し頬を赤らめて答えると、しのぶは彼女の耳元で小さく囁いた。
「『夜の方』も、相変わらず大切にされすぎているようですね? 目の下に薄く隈がありますよ」
「っ! し、しのぶさん!」
顔を真っ赤にして慌てるいのりを見て、義勇がスッと立ち上がり、彼女の背後に立った。