第8章 第8章 口下手な彼は彼女と暮らしたい 【鬼滅の刃 冨岡義勇】
「……胡蝶。余計なことを言うな。帰るぞ、いのり」
「えっ、もう!? まだお茶も飲み終わってないのに……!」
「日が暮れる。……帰って、夕飯の支度だ」
そう言いながら、義勇はいのりの手を引いて足早に屋敷を後にする。
本当は夕飯など二の次で、早く二人きりの空間へ連れ戻したいだけなのを、その場の全員が察していた。
「……全く。あの唐変木をあそこまで狂わせるとは、いのりさんも罪な人ですねぇ」
しのぶの呆れ顔に見送られながら、いのりは繋がれた手の熱さを愛おしく感じていた。
かつて自分を道具として扱った禪院家とは違う。
自分を「女」として、一人の「人間」として、狂おしいほどに求めてくれるこの腕の中が、今の彼女にとって唯一無二の安らぎの場所だった。
「義勇さん、今日の夜ご飯は鮭大根にしますね」
「……ああ。楽しみだ」
繋いだ手に少しだけ力がこもる。
夕暮れ時の静かな道を、二人の影が寄り添うように重なって消えていった。