第8章 口下手な彼は彼女と暮らしたい 【鬼滅の刃 冨岡義勇】
林道の奥、湿った土の匂いを切り裂くように、鼻を突く匂い。
炭治郎は洞窟の入り口で、あまりの匂いに顔を歪めた。
「冨岡さん、待って下さい!中の匂いが、あまりに……!」
義勇はその制止を振り切り、一陣の風となって暗がりの奥へと飛び込んだ。
洞窟の最奥。
そこには、見るも無惨な光景が広がっていた。
異形の鬼から伸びる、脈打つ粘り気を持った数本の触手がいのりの四肢を吊るし上げ、玩具のように弄んでいた。
「あ…っ、や…、あぁっ! はぁっ、はぁ……っ!!」
かつての地獄が、この異世界で形を変えて繰り返されていた。
全身の肌は、触手から溢れ出す白濁とした粘液に塗れ、その不浄な液体は彼女の口元や、引き裂かれた衣服の隙間から無残に垂れ流されている。
無理やり抉られる熱に、いのりは意識を朦朧とさせながら、絶望に潤んだ瞳で虚空を見つめていた。
「あぐっ、うぅ……あぁっ!! お、願い……っ、もう、殺し……て……っ!」
「ひひっ、いい鳴き声だ。この娘の体は、弄り甲斐があって堪らねえな!」
下卑た笑い声を上げる鬼。
その瞬間、洞窟内の温度が氷点下まで一気に叩き落とされた。
「……貴様」
地の底から響くような声。
義勇の瞳は、凪を通り越し、漆黒の怒りに染まっていた。
握りしめた日輪刀が、鞘の中で鳴動する。
「……その汚い触手で、彼女に触れるな」
「冨岡……さん……?」
白濁の海の中で、いのりが微かに焦焦を絞り出した。
その瞬間、義勇の姿がかき消える。
「水の呼吸、参ノ型型――『流流舞い』」
次の瞬間、いのりを拘束していた触手は、一太刀の下に細切れとなって弾け飛んだ。
鬼の首は、自分が斬られたことさえ気づかぬうちに宙を舞い、塵へと還っていく。
「あ……ああ……っ」
支えを失い、崩れ落ちるいのりの体。
義勇は、白濁した不浄な液に塗れることも厭わず、その震える体を力強く腕の中に抱きとめた。
「遅くなって……すまない、いのり」
「ごめんなさい、冨岡……さん。私、また……こんな……」
汚れ果てた自分を見られた絶望に、いのりは顔を覆って泣き崩れた。
義勇は何も言わず、自らの羽織を脱いで彼女の痛々しい体を包み込み、耳元で静かに、けれど熱を持った声で囁いた。
「お前は汚れてなどいない。……俺が、必ず清めてやる」
