第8章 口下手な彼は彼女と暮らしたい 【鬼滅の刃 冨岡義勇】
「随分と熱心な『治療』でしたねぇ、冨岡さん。最近、任務の帰り道が必ず蝶屋敷を経由しているようですが、地図の読み方でも忘れたんですか?」
「……最短距離を歩いているだけだ」
「嘘をおっしゃい。昨日なんて、反対方向から歩いてくるのを見ましたよ? それにその、あなたの髪紐いのりさんの髪紐と同じですね?」
しのぶがニヤニヤしながら詰め寄ると、義勇の眉がぴくりと動いた。
「……偶然だ」
「偶然で髪紐が一致するわけないでしょう。素直に『彼女に会いたくて貢物を持ってきました』って言えばいいのに。そんなんだからみんなに嫌われるんですよ」
「俺は、嫌われて……」
「はいはい、その話はもういいです。で? 明日は何を持ってくるつもりなんです? 記録でもつけましょうか?」
しのぶの容赦ない揶揄いに、義勇は一瞬沈黙した後、逃げるように踵を返した。
「……報告がある。行く」
「あっ、また逃げましたね! 逃げるくらいなら最初から堂々としていればいいのに!」
遠ざかる義勇の背中に向かって、しのぶの楽しげな声が追いかける。
それを見送っていたいのりは、新しくもらった髪紐に触れながら、少し顔を赤くしていた。
「あ、いのりさん! その髪紐、すごく綺麗ですね。とっても似合ってます!」
ある日、怪我の治療で入院してるベッドで、上半身を起こした炭治郎が、表情を明るくして声を上げた。
いのりは少し照れくさそうに、義勇から贈られた深い群青色の髪紐をそっと指先でなぞった。
「ありがとう、炭治郎くん。これ、冨岡さんがくださったの」
隣のベッドで善逸が疑り深い目を向けていたが、炭治郎はふんふんと鼻を鳴らした。
「やっぱりそうだ! その紐から、冨岡さんの匂いがすごくするから。……でも、いつもの冷たい川のような匂いじゃなくて、なんだか少し、照れたような温かい匂いが混ざってるぞ!」
「えっ……照れた匂い?」
いのりの顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「うん! それに、いのりさんからも冨岡さんの匂いがするし、冨岡さんが屋敷に来ると、二人の周りだけ空気の音が『ふわふわ』してるんだ。なんだか見てるこっちまで嬉しくなるな!」
炭治郎が純粋無垢な笑顔で爆弾を投下し続ける横で、善逸の顔が般若のように歪んでいった。