• テキストサイズ

禪院家の落ちこぼれシリーズ 【R18】

第7章 潜入捜査官の彼は彼女に助けられる 【名探偵コナン 諸伏景光】


セーフハウスの扉が開いたのは、日付が変わる直前だった。
玄関の鍵が開く音に、リビングで膝を抱えていたいのりが弾かれたように立ち上がる。
そこには、服が汚れ、顔に擦り傷を作った景光が立ち尽くしていた。

「……スコッチ、さん……?」

いのりの瞳から、堪えていた大粒の涙が溢れ出した。
その姿を見た瞬間、景光の張り詰めていた糸がぷつりと切れた。
彼は力なく笑い、吸い寄せられるようにいのりを腕の中へ引き寄せた。


「……ただいま。遅くなって、ごめん」
「あ……ああ、よかった……本当によかった……!」

いのりは彼の胸に顔を埋め、声を上げて泣いた。
景光はその震える背中を、壊れ物を扱うような手つきで撫でる。

「怖かった……急に胸が騒いで、あなたが遠くに行ってしまう気がして。ずっと、神様に……いえ、この世界の何かに、祈っていたんです」
「……君の祈りが、届いたんだと思う」

景光は、懐から取り出したあの小さな御守りをいのりに見せた。
球詰まりの痕跡が残る拳銃のことは伏せ、ただ慈しむようにそれを見つめた。


「これが、俺を守ってくれた。……絶体絶命の瞬間に、ありえないような『幸運』が起きたんだ。君がくれた、この小さな幸せのおかげだよ」
「そんな……私はただ、あなたが無事でいてほしくて……」

いのりが顔を上げると、景光は空いた手でその涙を優しく拭った。
直哉の手はいつも冷たく、彼女を汚すことしか知らなかったが、景光の手は驚くほど熱く、心まで溶かしていくようだった。


「君との約束を、破るところだった。……美味しい夕飯、まだ食べられるかな」
「はい……! ずっと温め直して待っていました。今、準備しますね」
「ああ。……それと、もう一つ」

いのりがキッチンへ向かおうとするのを、景光が呼び止めた。
その瞳には、黒の組織への潜入捜査官としての鋭さはなく、一人の男としての誠実な光が宿っていた。


「俺の本名は、諸伏景光。……スコッチじゃない、本当の俺を、これからは君の側に置いてくれないか、いのり」

彼女はその言葉の意味を噛み締めるように、深く、何度も頷いた。


「はい、景光さん……」


窓の外にはまだ暗い組織の闇が広がっていたが、この小さな部屋にだけは、呪縛から解き放たれた二人の、確かな体温が満ちていた。
/ 154ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp