第7章 潜入捜査官の彼は彼女に助けられる 【名探偵コナン 諸伏景光】
怪我が癒え、景光が再び「スコッチ」として戦場へ戻る日が来た。
セーフハウスの玄関先で、いのりは名残惜しそうに彼の裾を掴んでいた。
「……スコッチさん。これ、持っていってください」
差し出されたのは、ありふれた布で作られた小さな御守りだった。
だが、そこにはいのりが密かに込めた、僅かな「幸せ」を引き寄せる呪力が宿っていた。
「俺に? ……ありがとう」
「私には、これくらいしかできませんから。……大きな奇跡は起こせませんが、ほんの少しだけ、あなたに良いことがありますようにって」
景光は少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐに柔らかな微笑みを浮かべてそれを受け取った。
「十分だよ。……すぐ、帰ってくる。だから、美味しい夕飯を作って待っていてくれないか」
「はい。約束ですよ」
その言葉を最後に、彼は夜の街へと消えていった。
だが、現実は残酷だった。
任務の最中、ほんの些細な綻びから彼の正体が漏洩した。
「……くそっ、どこで漏れた……!」
逃げ込んだビルの屋上。
景光の肩が激しく上下する。
懐の携帯電話を握り締め、彼は死を覚悟した。
死へのカウントダウンが始まる。
彼は自決用の拳銃を抜き、胸元に当て、胸元の御守りを強く握り締めた。
階下からは、死神の足音のような靴音が迫っている。
(…… いのり……ごめん。約束、守れそうにない)
彼女の穏やかな笑顔が脳裏をよぎる。
自分がここで捕まれば、セーフハウスにいるいのりの身も危うい。
組織に知られる前に、すべてを闇に葬るしかなかった。
景光は震える手で拳銃を自身の胸元へ押し当て、躊躇なく引き金を引いた。
カチッ――。
乾いた金属音だけが響いた。
心臓を撃ち抜くはずの衝撃は来なかった。
「な……っ!? 球詰まり(ジャム)……!?」
こんな時に、あり得ない。
完璧に整備していたはずの愛銃が、最悪のタイミングで牙を剥いた。
いや、牙を抜かれたのだ。
呆然とする景光の前に、ライがゆっくりと姿を現した。
「そこまでだ、スコッチ。……自決はおすすめしないな」
「……ライ。殺せよ、早く」
「…落ち着いて聞け。俺の本名は赤井秀一。君と同じ、この組織を内側から食い破ろうとしているーーノックだ」