第7章 潜入捜査官の彼は彼女に助けられる 【名探偵コナン 諸伏景光】
「私は……彼に命を救われただけです。行き場のない私を、彼は何も聞かずに置いてくれました」
「ふうん。あいつらしいお節介だ」
「あの……スコッチさんは、大丈夫なんですか? その、お仕事で、いつもあんなに怖い思いを……」
彼女の問いに、バーボンは少しだけ黙り込んだ。
親友が命を懸けて守っているこの「平穏」を、壊してはいけないと感じたのかもしれない。
「あいつはしぶとい男だよ。……それより、君」
「はい」
「スコッチが起きたら伝えてくれ。『次はもっとうまく隠せ』とな。……それと、あいつを助けてくれて感謝するよ」
バーボンはそれだけ言い残すと、夜明け前の街へと消えていった。
数時間後。
朝日が差し込む部屋で、スコッチ――景光がゆっくりと瞼を持ち上げた。
「……ん……。ここは……」
「スコッチさん! 気がついたんですね……!」
視界が滲むほど泣きはらした瞳で、彼女が自分の手を握りしめている。
景光は痛む肩をさすりながら、記憶を辿った。
「そうか、ゼロがここまで……。ごめん、怖い思いをさせたね」
「いいえ……そんなこと。あなたが無事で、本当によかった……」
彼女が堪えきれずにその胸に顔を埋めると、景光は戸惑いながらも、残った左手でそっと彼女の髪を撫でた。
「……もう大丈夫だ。君がいる場所に、ちゃんと帰ってきたから」
呪いのない世界。
けれど、戦いの絶えない日々。
それでも二人の間には、確かに新しい絆が芽生え始めていた。
景光が負傷してから数日。
セーフハウスの静かなキッチンには、包丁がまな板を叩く軽快な音と、出汁の優しい香りが満ちていた。
「あ、スコッチさん! まだ起きちゃダメだったのに。熱も下がりきってないんですから」
エプロン姿の彼女は、ふらりとリビングに現れたスコッチ――景光を慌てて支えた。
「はは……ごめん。いい匂いがしたから、つい。本当に、君は料理が上手だね」
「そんなこと……。あの家にいた時は、自分の分を作るだけで精一杯だったんです。でも、今は誰かのために作れるのが、すごく嬉しいんです」
景光がソファに腰を下ろすと、彼女は手際よくお粥を並べた。
そこへ、空気を読まない軽快なノックが響いたのは、ちょうどその時だった。
「やあ。傷の具合はどうかな、スコッチ」
現れたのはバーボンーー降谷零だった。
