第7章 潜入捜査官の彼は彼女に助けられる 【名探偵コナン 諸伏景光】
彼が連れてきたのは、組織に報告していないセーフハウスの一つだった。
「水だ。少しずつ飲め」
差し出されたコップを震える手で受け取る。
彼女は、この世界には「呪霊」も「呪力」も、そして自分を虐げる「禪院」という名すら存在しないことを、彼の説明と穏やかな眼差しから察し始めていた。
「……私は、捨てられたんです。あそこにいたら、死ぬまで……」
「捨てられたんじゃない。君が、そこを捨ててここに来たんだ」
スコッチは、彼女の傷だらけの手をそっと包み込んだ。
彼の指には銃を扱う者の硬いタコがあったが、その温もりは直哉の冷酷な指先とは決定的に違っていた。
「俺も、あまり真っ当な世界にいるわけじゃない。だけど、君をあんな目に遭わせる奴らからは、俺が守ってやる」
その言葉は、潜入捜査官としての偽りではなく、目の前のひとりの女性に向けた、諸伏景光の本心だった。
こうして、呪縛から逃れた彼女と、闇に潜む光を持つ男の、奇妙な共同生活が始まった。
セーフハウスの狭いリビング。スコッチは少し決まり悪そうに、持ってきた紙袋をテーブルに置いた。
「とりあえず、外に出られるような服と……その、一通りは揃えておいたよ。サイズ、合わなかったら言ってくれ」
彼女が恐る恐る袋の中を覗くと、トップスやスカートやワンピース、そして一番下の小さな袋には、控えめなデザインのランジェリーが入っていた。
「あ……ありがとうございます。あの、サイズ……大丈夫だと思います。お聞きになった時、お顔が赤かったので、申し訳なくて」
「っ、それは……。いや、店員に聞くのもなかなか骨が折れたからね。気にするな」
スコッチは誤魔化すように視線を逸らし、台所へ逃げ込んだ。
しばらくして、着替えを終えた彼女がリビングに現れる。
ボロボロの服を脱ぎ捨て、淡い水色のワンピースに身を包んだ姿に、スコッチは包丁を持つ手を止めた。
「……どうでしょうか」
「……ああ。見違えた。元々綺麗な人だとは思っていたけれど、本当によく似合っている」
直哉に浴びせられた「玩具」としての賞賛ではない。
一人の女性として向けられた真っ直ぐな言葉に、彼女の胸の奥がじんわりと熱くなる。
「さあ、冷めないうちに食べて。今日はポトフだ」