第6章 正義感の強い彼は彼女を護りたい 【名探偵コナン 降谷零】
「……日本を守るため、と言えば聞こえはいいが、実際は泥臭い仕事ばかりだ。君がいた世界と同じように、ここも決して綺麗な場所じゃない」
「でも、降谷さんは守ってくれました」
彼女はガーゼを当てながら、潤んだ瞳を上げた。
「私を拾って居場所をくれた。……だから、降谷さんが傷つくのは嫌です。ニュースの中の人たちが助かっても、降谷さんがいなくなったら、私は……」
その言葉に、降谷は残った右腕で、彼女の小さな手をそっと包み込んだ。
「……心配をかけたな。死ぬつもりはないさ。僕には、守らなきゃいけない『国』があるからな。……それに、今はここにも、帰ってこなければならない理由ができた」
「降谷さん……」
「今夜は少し、そばにいてくれないか。……君の顔を見ていたら、ようやく呼吸が楽になった気がするんだ」
降谷の弱音とも取れる言葉に、彼女は深く頷いた。
窓の外では依然として事件の余波が続いていたが、この部屋の中だけは、静かで優しい時間が流れていた。
降谷はわずかな仮眠を取ると、何かに突き動かされるようにして再び喧騒の中へと戻っていった。
テレビの中では、事件の進展が休むことなく報じられ、容疑者が逮捕されたと報道されていた。
(……これで、終わったのならいいけれど)
その願いは裏切られることになる。
日付が変わった深夜。
玄関の鍵が開く音が、以前よりもずっと重く、鋭く響いた。
入ってきた降谷の顔を見た瞬間、彼女は言葉を失った。
「降谷、さん……?」
そこにいたのは、冷静沈着な公安警察官でも、穏やかな保護者でもなかった。
瞳の奥にはギラついた焦燥が宿り、その表情は今にも弾けそうなほど張り詰めている。
着替えを取りに帰っただけのようだが、その指先さえどこか微かに震えていた。
「ああ、起きていたのか。……悪いが、すぐに出る」
「あの、ニュースで見ました。犯人が捕まったって……でも、降谷さんの顔、全然安心したように見えません」
降谷はクローゼットから予備のシャツを掴み、吐き捨てるように言った。
「……事態は最悪の方向に動いている。僕たちが想定していた以上の事態だ。一刻の猶予もない」
その背中からは、死地へ赴く武闘派の男たちのような危うい気配が漂っていた。
このままでは、彼は二度とこの部屋に帰ってこないかもしれない。
そう直感した。
