第20章 神業
────
──────
「……血が止まらないな。五条、そこの止血剤と包帯、取って」
「はぁ〜??僕をパシリに使うなんていい度胸だよね、硝子って」
硝子さんと五条さんの声が、遠く……いや、すぐそこで聞こえる。
また新しい夢の中にいるのか、それとも現実に戻ってきたのか。
曖昧な意識のまま、私は重い瞼をそっと押し上げた。
「……ご、じょ…さん」
「え」
ぼやける視界の端に見慣れた白い髪が見えて、掠れた声で名前を呼んでみる。
すると、その白髪が勢いよく振り返り、次の瞬間に黒いアイマスクが視界いっぱいに飛び込んできた。
「しょッ、硝子ォ!!!ナマエが起きた!!」
「うるさい。早くその薬 寄越せ」
ガバッとアイマスクを外した五条さんは、宝石のような六眼を潤ませながら硝子さんの名前を呼ぶ。
それがなんだか可愛くて、優しくて、ふと笑みが零れた。
「ナマエ!!痛いところとかない!?気分は!?」
「んん………平気、」
そう答えながら痛む身体を身体をゆっくり起こそうとすると、すかさず五条さんの手が背中に添えられる。
その温もりに確かな現実味を感じながら、私は医務室の中をぐるりと見回した。
「無くなった腕は戻してやれなかった。すまないな」
「いえ!そんな…!!命があるだけ、……十分ですから」
視線の先───二つ隣のベッドでは、片腕を失くした術師の男性が、硝子さんに包帯を取り替えられているところだった。
くるくると解かれる包帯は赤黒く染まっていて、患部の生々しさは、見ているだけで私の腕まで疼くように痛くなってくる。
(…………反転術式)
その運用方法は理解できていない。
これまで数回だけ、タイミングが合った時に、硝子さんの治療を横で見せてもらう機会はあった。
けれど、当の硝子さんからは「ひゅーっとやって、ひょいっとやれば出来る」という、ふわっとした擬音だらけの説明をもらった記憶しかない。
それを真似して何となく試してみても、今までの私に反転術式が使えた試しなんて、ただの一度もなかった。