第20章 神業
その場にのたうち回っていたのは、見てくれだけでも確実に一級相当────最悪、特級相当にまで達しているであろう禍々しい呪霊。
しかし、神子様は一瞬にしてそれを"祓除"してみせた。
懐に入って、ただそっと、触れるだけ。
どちらも術式を使ったようには見えなかったのに、たった一瞬で呪霊の姿は空気に溶けて消えてしまった。
先ほど私が見た、神子様の微笑み。
それに絶対的な安堵感を覚えたのは、彼女の風貌から漂う"圧倒的な強者の風格"のせいだと、すぐに理解されられた。
「怪我人を運べ!!重傷者からだ!!」
その掛け声と同時に、血だらけの負傷者たちが周囲の肩を借りて、神子様の前へと小さな列を作った。
(……反転術式も、使えるんだ)
手元に淡く柔らかな呪力の光を放ちながら、次から次へと流れるような手際で治療を施していく神子様。
息を呑んでその光景を見つめていると、青白い顔をした一人の女性が ぐったりとした小さな身体を必死に両腕に抱えながら、神子様の足元へと跪いた。
「あのっ…!!あのっ、巫女様…!! うちの子がッ、うちの子が、あの化物に足を喰われてしまって…!!お願いします、どうか、どうか助けてください…っ!!」
「おい止めろ!!もう手遅れだと言っただろう!! これ以上 巫女様に無礼を働くな!!諦めろ!!!」
女性を後ろから引き剥がそうと声を荒らげた男性は、今にも神子様の足元に縋りつきそうな母親の手を蹴り上げんばかりの勢いだった。
しかし それを片手で優しく制した神子様は、腕の中の子供をジッと見つめると、小さく息を吐いて母親の泥塗れの頭をそっと撫でる。
──────そして。
「……お、かあ…」
「あ……っ、あぁッ……!!!ああ、あああ……っ!!」
神子様が手を翳すと、子供は息を吹き返すどころか、消失していたはずの下半身が一瞬に再生していく。
呆然と涙を流す母親の前で、神子様はただ、慈愛に満ちた笑みを優しく浮かべていた。
(………なにあれ。……あんなの、硝子さんでも出来るか分かんないのに、)
高度な反転術式───いや、あれは本当に反転術式だったのだろうか。
混乱が溶けきっていない頭に、また新たな混乱が生まれて、私の頭の中はぐちゃぐちゃに掻き乱されていた。