第20章 神業
僕との約束を忘れることはないと分かっていた。
そして、それを絶対に破らないことも分かっていた。
全てを理解した上で交わしたというのに、ギリギリの状態で生還したナマエの姿を見て、胸の奥からどうしようもないほどの後悔が募ってしまう。
(………ナマエ。お前は、あの約束がなかったら、こんなに傷ついてなかったかな)
消えた額の傷も、身体中に出来た深い切り傷も。
痛かっただろう。苦しかっただろう。
それなのに、この子の頭の片隅にはずっと僕の言葉があって、それが呪いのように、ナマエの行動を縛り続けていた。
その事実に気づいた瞬間、後悔とはまた全く別の感情が胸の奥底に芽生え───ふっと、自嘲気味に呆れた笑いが漏れる。
(あ〜………。はは、なんだこれ)
ナマエが僕との約束を命懸けで守ったという、その行動ひとつで、僕は今、気味が悪いほどに満たされている。
この乾いた胸を満たしていくものの正体────それはきっと、ナマエという養分で肥大化した、僕の"支配欲"だ。
(ホント、昔っから どうしようもなく"良い子"だよね。お前は、)
そう心の中で呟いて、僕はナマエの紅白の混ざった桃色の髪をするりと撫でた。
出会った幼い頃からずっと、ナマエは他人の顔色を窺って、無意識レベルで相手の望みを叶えようとする。
我が儘も、悪戯も、反抗も。
小さな子供なら誰もが通るはずの必要な過程なのに、ナマエはそれすらも許されない歪な環境で育てられてきたことが、染み付いた習性から嫌というほど見て取れた。
「………ナマエ、早く起きてよ」
そしてお前の故郷の凄惨な記憶も、過去の不遇な境遇も───お前が唯一呪った"アイツ"のことも全部忘れて、僕に一番に笑いかけて。
そしたら僕は、また一段とお前に狂わされて、この退屈な日常の中でも快楽を得られるだろうから。
そんな底の知れない重い思考に沈み込みかけたところで、僕は愛おしい髪からゆっくりと手を離した。
その瞬間。医務室の扉がガラリと開き、術師らしきひとりの男がふらふらと室内へ入ってきた。