第20章 神業
「…………ナマエ、起きて」
冷たい地面の上で眠りこけるナマエの元へゆっくりと歩み寄り、その名前を小さく呼びかける。
額から頬にかけて幾筋も流れて固まった赤黒い血を、ゴシゴシと拭いながら。
血に濡れてもなお、清い頬を愛でながら。
しかし、その瞼が持ち上がることはなかった。
「五条さん。……苧環さんは、」
「生きてるよ」
背後から恐る恐る問いかけてくる伊地知の言葉を、食い気味に遮って答える。
それを聞いた伊地知は、全身の力が抜けたように分かりやすく安堵の息を吐き出した。
ナマエは、僕が育てた、僕の娘。
呪術の扱いに関してはそこらの術師より頭ひとつ抜けているし、そう簡単に死ぬような柔な子じゃないことくらい、僕が一番よく知っている。
……だからと言って、出会ってから今日までナマエに絆され続けた僕に「心配するな」というのは、到底無理な話だった。
「他の術師は全滅。後は頼んだよ」
「はい……」
他の術師が殺される瞬間を、ナマエが目撃していないことを心の中で願って。
僕は、ナマエののまだ小さな身体を横向きに優しく抱き上げ、村の出口へと歩き出した。
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「ってワケで、せっかく昼飯返上で向かったのに僕の出番なかったんだよね〜!!硝子、どう思う?」
「……用がないなら、いい加減出ていってくれないか」
医務室のベッドの横でケラケラと笑いながら問いかけると、硝子は心底面倒臭そうに息を吐き、僕をジロリと睨みつけてくる。
どうやら昨晩からつい先程までノンストップの激務だったらしく、酷く不機嫌らしい。
……ま!僕には関係ないけど!!
「ねぇ。ナマエ、全然起きないんだけど」
「できる治療はさっき済ませた。脈も意識レベルも正常だから、そのうち起きるよ」
何回言わせるんだ、と呆れたように言い放った硝子は、あろうことか眠ったままのナマエをベッドに放置して、仮眠室へと歩き出してしまう。
「ちょっと硝子!!!ナマエに もしもの事があったらどうすんのさ!!!」
「…………どうせお前が起こしに来るだろ」
その言葉と大きな欠伸だけを残して、硝子は仮眠室の遮光カーテンをシャッと容赦なく閉じた。