第20章 神業
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伊地知に全力で車を走らせたものの、現場に到着する頃には既に二時間以上の時間が経過していた。
携帯のディスプレイに映された時刻は、とっくに18の字を過ぎている。
深い山の中。寂れた村の入口。赤い鳥居。
どこか懐かしくも嫌な予感を覚えながら車を降りた瞬間、村全体から漂うナマエの残穢を、僕の目がハッキリと捉えた。
(…………あの時と同じだな)
あの日。ナマエの故郷で、まだ小さかったナマエを初めて腕の中に抱き上げた、あの時。
村からは今の現場と同じように、ナマエ自身の呪力の残穢が大量に溢れ出ていた。
それは どれだけ時間が経っても薄まることはなく、後から調査に派遣された術師や補助監督にさえバレてしまうほど。
「本当に、申し訳ございません……!!」
村の入口に足を踏み入れると、血塗れの包帯をあちこちに巻いた補助監督の男が深く頭を下げた。
「─── 次はないよ」
僕はそれだけ言い残し、男を一瞥することもなく、事前に聞いていた村の最奥へと大股で足を進める。
──── 呪霊の気配は感じられない。
完全に消滅している。誰かがこの数時間で、特級を綺麗さっぱり祓ったのだ。
それが一体誰の手によるものなのか、現場の詳しい内情を見ていない僕には分かりようもない。
「………」
「……っ」
普段なら、誰がどう祓おうが、どうでもいいはずなのに。
それなのに、どうしようもなく歩幅が大きく、早くなってしまうのは、この先にナマエがいて、その安否すら未だ不明だからに他ならない。
僕の背後に必死について来る伊地知も、きっと同じ思いを抱えているはずだ。
「───……」
村の最奥。
古びて半壊した小さなお社の前で、ぐったりと四肢を投げ出し、あちこちから赤黒い血を流している一人の少女の姿が見えた。
「……!!五条さん、あれは……っ」
それを見つけた伊地知は、ハッと表情を明るくして声を上げた。
(…………ナマエ)
視界の先のナマエは、ボロボロに傷つき、白い肌を血に染めながらも、まだ微かに呪力が脈打っているのが見える。
その後、僕は張り詰めていた心の糸を解くように、そっと深く息を吐いた。