第20章 神業
納得しきれていないのが分かりやすいくらい顔に出ている彼を見て、つい笑みが零れてしまう。
それを見た恵くんには、「……何笑ってんだよ」と怒られてしまったけれど、全く怖くない。
「ねぇ、恵くん。帰ったら二人で映画見ようね。───約束!」
少しでも不機嫌な彼の心を和らげたくて、私は恵くんの大きな手を取り、自分の小指を彼の小指にそっと絡め合わせる。
指切りげんまん。
(……私、恵くんとの約束は、何があっても絶対に守るよ)
そう思いを込めて、私は絡めていた恵くんの小指をゆっくりと解放した。
……そして。
「───……行ってきます」
三人にそう告げて、私は高専の長い階段を一気に駆け下りた。
怖くないわけじゃない。
だけど私は、私自身がこれまで積み重ねてきた努力を、恵まれたこの術式を、誰よりも信じているから。
「京都と連絡取れましたが、一級全員出払っています!!」
携帯端末を片手に、青白い顔をした補助監督の男性。
血の匂いと怒号が飛び交う中、そんな彼の元へと一気に駆け寄って、私は深く頭を下げた。
「苧環 ナマエ、準一級術師です!!私を現場に連れていってください!!」
「準一級……?っ、ダメです。学生をそんな場所に放り込んで、死にに行かせるようなこと、」
私の階級を聞いて一瞬だけ希望を見かけた彼だったけれど、私の着ている高専の制服を見た途端、大きく首を横に振ってそう言った。
どうやって説得をしようか、そう考え始めた時。
「……待て。苧環、って、」
「……?」
「っ…!!まさか、例の一級を辞退した方、ですか?」
「…はっ、はい!すみません、」
一人の補助監督さんが小さく呟き、それに連鎖するように一級昇給辞退の話が持ち上がる。
こんなにも知れ渡っているならば、嘘でも最初から「一級術師です」と名乗り出ればよかった。
そんな不謹慎で邪な後悔が頭をよぎったのも、ほんの束の間。
「………力を貸してください」
一転して、大人の補助監督さんたちが私に向かって深く頭を下げる。
この絶望的な状況で必要とされた事実にほんの少しの昂ぶりを感じると同時に、それだけ切迫している現状に、私の背筋には冷たい緊張が走った。