第20章 神業
「………ごめんね、恵くん」
それだけを言い残し、私は大人たちの元へ向かうために階段を降りようとした。
けれど、私の腕を掴む恵くんの強い力は、どうしても緩んでくれなくて。
「………ダメだ」
絞り出すような、懇願に似た低い声。
それを聞いたのは───少年院での一件で互いの傷を舐めあったあの時と今で、二度目だった。
「……ありがとう。……でも、行かなきゃ」
そう言って恵くんの方へ ゆっくり振り返ると、私の身体が捻れて痛まないようにと、腕の力が弱まった。
真っ直ぐ向かい合って、苦しそうに歪んだ顔を見上げて。
その顔をさせているのが自分だなんて信じたくなかったけど、私は、私のやるべきことを見つけてしまったから。
「虎杖くん、野薔薇ちゃん。ごめんね。今日の任務は、恵くんと三人でお願いします」
「え……。苧環は、来ねぇの…?」
私の突然の宣告に、不安そうに表情を曇らせる虎杖くん。
そんな彼を安心させたくて、私は精一杯の笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「うん、ごめんね。資料では二級相当の呪霊の調査だったから、恵くんが居れば直ぐに終わると思う!……だから、三人に任せてもいいかな?」
この場に似合わない、私の不自然なほどの明るさに何かを察しながらも、虎杖くんは「そっ、か……分かった」と、渋々ながらも受け入れてくれた。
「………野薔薇ちゃん」
「……なによ」
次は、少し不貞腐れたような表情の野薔薇ちゃんを呼びかけた。
怒っているように見えたのに、私の声にちゃんと反応して、ちらりとこちらに視線をくれる。
そんな素直じゃないところも何だか愛おしくて、小さく笑った後。
「……信じてるよ」
「だから、死なないでね」の言葉は飲み込んで。
まっすぐ瞳を見つめて告げれば、野薔薇ちゃんは驚いたようにその綺麗な目をまん丸く見開く。
そして一度目を伏せてからフッと鼻を鳴らし、「今更ね」と呟いて、小さく笑って見せてくれた。
そんな頼もしい野薔薇ちゃんから視線を外して、……最後は。
「恵くん、二人をよろしくね」
「……………」
「恵くん」
なかなか返事が返ってこなくて呼びかける。
すると恵くんは険しい顔のまま、「…………分かった」と小さな了承の声と共に、深い息を吐き出した。