第20章 神業
────翌日。
「この時間からの任務だと、夜ご飯は外で食べるよね?みんな何食べたい?」
「私はその時の気分によるわね」
「俺は肉かな〜……。前に五条先生と釘崎と行ったとこ!!伏黒と苧環にも食ってほしいし!」
担当の補助監督さんが現れるまでの間、私たちは高専の正門前に集まり、そんな他愛のない会話を繰り広げていた。
……しかし、長い階段の下に一台の車が急ブレーキの音を響かせて滑り込んできた瞬間。
私たちの間に流れていた明るい雰囲気は、一瞬にして霧散してしまった。
「家入さんはどこだ!?」
「既に話は伝達済みです!!恐らく救護室内で治療の準備を……!!」
「次の要救護者が運ばれて来る前にストレッチャーで運べ!!少しでも巻きで治療してもらわないと、誰か死ぬぞ!!」
車の扉が勢いよく開いたと思えば、顔を真っ青にしたスーツ姿の補助監督の男性二人が飛び出してくる。
遠くからでも見える、白いシャツに付着した赤黒いシミは、……なんだろうか。
「……騒がしいわね」
野薔薇ちゃんが不穏な空気を感じ取ったように眉間に皺を寄せて、階段下の様子を凝視する。
それに釣られるように、私も何が起きたのかと下を覗き込もうとした。
けれど、後ろから恵くんに強い力で腕を引かれ、身体を引き戻されてしまった。
「恵くん……?」
「見なくていい」
「でも、」
「いいから見んな。……目ぇ瞑ってろ」
やっぱり、恵くんは優しい。
優しいから、これから私の目に映るであろう呪術界の残酷な現実から、目を覆い隠そうとしてくれている。
……でも、私はそこまで察しが悪くないから、理解してしまっていた。
「右腕……っ、肘からの欠損部、止血が全く間に合いません……!!」
「いいからとにかく運べ!!!……ッ、おい、上に学生がいる。布で隠せ、急げ!!」
バタバタという荒々しい足音と共に、鉄錆の匂いが階段を上がってくる。
私の視界は、既に背後から伸びてきた恵くんの暖かくて大きな片手によって、完全に覆い隠されていた。
けれど、犠牲者のうめき声と、焦燥しきった大人たちのやり取りが聞こえた瞬間。
私の頭上で、恵くんは苛立ちを隠そうともせずに低く舌打ちを鳴らした。