第19章 いつか、また
「一枚で済むわけねぇだろ」
「………それは、…確かに、そうかも」
先ほどの前科を思い出し、私はあっさりと恵くんに丸め込まれて納得してしまった。
すると私たちの背後から「ナマエまで恵の味方するのっ!?」という五条さんの声が、高専の敷地に虚しく響いた。
「我儘言ってないで、さっさと助手席乗ってください」
「はあ?なんでお前がナマエの隣なわけ?選択権は出資者の僕にあると思うんだけど!!」
敷地付近に停まったタクシーの前。
恵くんに後部座席の扉を開けてもらい、私は先に運転席の後ろの席へ腰を落としていた。
そして車外で繰り広げられる相変わらずのやり取りを耳にしながら、「お騒がせしてすみません……」とバックミラー越しに運転手さんへ謝罪を済ませる。
「あの……。三人で後ろに乗ったらいいんじゃないかな…?」
見かねた私が車内からそう声をかけると、外の二人が一斉に私の方へと振り返った。
「……無理だろ」
「本気出せば行けるでしょ。僕スリムだし」
「狭い、暑い、ウザイ。ので無理です」
指折り数えて理由を並べた恵くんに、今度は五条さんの方が露骨に嫌な顔をしてみせる。
「そんな生意気言うなら、恵だけ訓練の一環で走って浅草まで───……」
「アンタが走って来てください」
それだけ言い残した恵くんは、五条さんを押しのけて後部座席へと侵入してくる。
それを見た五条さんは「あ゛っっ!!」と声を漏らしたけれど、「すみません、浅草までお願いします」という恵くんの言葉に、慌てて助手席へと乗り込んだ。
バタン、と小気味よく車のドアが閉まると、車内には小さなラジオの音だけが広がった。