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【桃源暗鬼】有用と無駄〈無陀野無人〉

第2章 傘の内側


「もうしないって言うくせに…
どうしてそんなことを言うんですか?」

「わからない。
お前に俺以外の世界を知って欲しい。
だが、誰にも奪われたくない」


本当にわからないんですか?
無人さんがわからないはずがない。

俯く無人さんの表情は見えなかった。


「私からするのは?」

「セックスしたいって言ってたか…
痛くなってもいいのか?」


無人さんか言う痛みって、そういうことだったの?
慰めてもらうのも前戯だと教わった。
あんなに気持ちいいものが、痛いの?

質問を質問で返されたので、もう一度キスをしようと近付く。
だが、唇が触れたのは…無人さんの手の平だった。


「食事と風呂は必要だ
……ふっ、今はこれで我慢しろ」


口元を押さえていた手が頬に移り、親指で撫でられる。
擽ったくて肩を竦めると、唇が重なった。

軽く開いた唇の隙間にぬるっとした温かいものが入ってくる。
無人さんの舌だ。
私のと絡んで離れて…唾液が流れてくる。

糸を引いて離れる唇。
口内に残った唾液を飲み込んだ。

脳が溶けてなくなってしまいそうなキス。

無人さんの涼しい瞳の奥に燻る熱には、気付いていなかった。


「しないって言ってたくせに…」

「煽られたら応える。
俺も男だからな」


珍しく意地悪な笑みを浮かべた無人さんを見て、心臓が痛かった。
この痛みは――嫌いじゃない。


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