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【桃源暗鬼】有用と無駄〈無陀野無人〉

第2章 傘の内側


「無人さん、好き…」


その言葉は、無陀野無人本人の耳に届いていた。
呟いた言葉にも関わらず、月の部屋の前で、その言葉を聞いていた。

無陀野無人の口角が上がる。
ほとんど笑うことのない男は、白兎月に関することだけには、表情が柔らかくなる。

愛しい――無陀野無人ははっきりとその感情を持っていた。
自身の感情を理解していた。


「月、入るぞ」


鈴を転がすような愛らしい声。
その声の返事を聞いて、扉を開ける。

目を細めて微笑む月を、欲望のままに押し倒したい。
無陀野無人は自身の黒い感情といつも戦っている。

ベッドから降りて近付いてきた月が――口付けた。


「ダメだ。
もうこういうことはしない。
身体が熱くなっても、自分で出来るだろ」


この兎の純白を、自身の手で染めることが出来たら――月は処女だと思っている。

ずっと実験体として生きてきて、無陀野無人に触れられても、嫌悪感を抱いていないのに気付いているから。
もし桃に汚されたのなら、男の手に拒絶や怯えを見せるだろう。
月は無人に触れられるのを悦んでいる。

こいつは処女だ――疑いもしなかった。


「ねぇ無人さん…
私、無人さんとセックスしたい」


無表情のままの無陀野無人の心臓が音を立てる。


「誰から教わった?
俺以外に聞くな、俺以外に触れるな。
皇后崎に触れさせただろ」


数年抑えてきた感情は、もうすぐそこまで膨れ上がっていた。

月の全てを奪い尽くしたい。


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