第1章 兎に傘
「……月、起きろ。
――泣くな」
あったかい…。
目をゆっくり開けると、カーテンに透ける光で絹のような黒髪が光っていた。
光が嫌いだった。
でも今は…大切な人への道標。
光がなければ、私はこの人をこの瞳に映すことなど出来ないのだ。
真っ黒なこの人を__。
頬の下にある腕は肩を掴み、上にある腕は髪を撫でていた。
無人さん、上で寝てたんじゃ…。
彼がすぐそこにいる嬉しさと眠気で目を細める。
完全に閉じた頃、唇に何か触れた。
柔らかくて、生暖かい何か。
目を開けて、何をしたのかと首を傾げる。
「キス、して欲しかったんじゃないのか?」
「……キスって、なんでするんですか?意味はあるんですか?」
無表情の無人さんが少し、目を細めた。
唇の端が一瞬、上がる。
キスは知っている。
でも、何故するのかは知らない。
人工呼吸でもないのに…。
「本当に知りたいのか?教えないぞ。
……何故、調べない?」
調べてしまえば、すぐに答えがわかってしまう。
それに――無人さんとの会話がその分、減ってしまうじゃないか。
冷たいこの声が心地いいの。
私の鼓膜を震わせる音は、あなたからの音がいい。