第1章 兎に傘
「も、もたろう…?」
男は何も答えなかった。
表情も変えなかった。
「……おに?」
「そうだ」
私の身体を膝で抱え、覗き込む真っ黒な瞳と視線が交わる。
怖い程冷たい表情、瞳。
それでもその奥に温かさが宿っている気がした。
扉の方から桃太郎の声が聞こえたかと思えば、血の傘が私とタトゥーの男を覆う。
桃太郎の気配はなくなっていた。
黒く光る血の傘が、これからの私に恐怖をもたらすのか、幸せをもたらすのか、この時は何もわからなかった。
ただ…この傘が、この男が――私を抱き締めてくれた。
意識はそこで途切れ、覚えているのは…ここに来てからのこと。