第1章 兎に傘
「無人さんに教えて欲しい…」
一瞬だけ柔らかく微笑んだ無人さんに起こされ、ベッドから出る。
私の心臓はうるさい程、音を立てていた。
黒いショートパンツとロングコートを渡され、寝巻きを脱ぐ。
「はぁ…お前には羞恥心というものがないのか」
首を傾げる。
変な声が出ることに対しては恥ずかしいと思うが、今は何のことを言われているのかわからない。
気にせずに寝巻きを脱いで下着姿になる。
「ここにいるのが俺じゃなくても、そういう格好をするのか?」
ふるふると首を振れば、満足そうに笑い、コートを肩に掛けてくれた。
別に恥ずかしいとは思わないが、無人さん以外に全てを晒すのは嫌だと思う。
この人が特別なのだ。
スーツに着替えた無人さんはローラースケートを履き、傘を持った。
歩く私の速さに合わせて、ローラーを回す。
私の速さに合わせるのは、"無駄"じゃないのかな…。
いつまでもこの人の隣に居る為には、"有用"であることを示し続けなければいけない。
この人だけが私の存在を許し、私が私で在ることを許してくれる。
無人さんがいないところで暴走したら――死。
彼の手足となれるように、強くなる。
羅刹学園にいたら、強くなれるし…生徒として、無人さんの保護対象として一緒にいられる。
保護対象じゃなくなっても、強くなれれば…有用。
教室の扉の前で止まった無人さんが、髪を撫でた。