第46章 秋の香りと想い
『じゃあ、まずは七海からね』
「……本当にやるんですか」
『うん。せっかくだから!』
紅海はテーブルに置いてあるマヨネーズを取ると、七海のお好み焼きに、少しずつ文字を書き始めた
「大好き♡」
最後に小さなハートを添える
『はい、できた!』
七海は、皿を見た
白いマヨネーズで書かれた文字
あまりにも無邪気で、あまりにも堂々としている
「…………」
言葉が出なかった
『次は遊佐くんね!』
遊佐の皿にも、同じように文字が書かれていく
「大好き♡」
『はいっ!』
遊佐にとって破壊力がとてつもなく凄い
そして、伊地知の皿にも
「大好き♡」
『イッチーも、いつもありがとう!』
「えっ、あ、ありがとうございます……!」
伊地知は戸惑いながらも、嬉しそうに笑った
『それじゃあ、いくよ?』
紅海は両手を軽く胸の前で合わせ、少しだけ恥ずかしそうにしながら
文化祭よりはアクションも小さく…照れながら笑顔を浮かべ
『おいしくなぁれ♡おいしくなぁれ♡』
ぱちりと片目を閉じて、きらきらとしたウインクを向けた
そして最後に両手を小さく広げる
『はいっ!召し上がれ!』
――沈黙
店内の喧騒は変わらず続いている
鉄板の上でソースが弾け、隣の席から笑い声が聞こえた
けれど、このテーブルだけは、妙な静けさに包まれていた
『……えっ…』
あまりにも静かになったので戸惑う紅海
隣で面白がる五条
七海は、無表情だった
背筋を伸ばし、箸を持ったまま、皿を見下ろしている
顔には何も出ていない
出ていない、はずだった
か…可愛い…その年齢でその行動はどうかと思うが
だが…可愛い
率直に言えば、そう思った
そもそも、二十代後半の女性がこんなことをしている姿を
可愛いなどと面と向かって評するのも、いささか憚られる
それを本人に伝えるなど、なおさらだ
あの表情も、仕草も、照れながらも一生懸命にやりきったところも
何より、本人がこれを特別なことだと思っていないのが厄介だった
分かっている
分かっているが
「…………」
七海は静かに箸を動かし、お好み焼きを口へ運んだ
味は、美味しい…いや、当たり前だ
店で出している食事なのだから