第46章 秋の香りと想い
七海は小さく息を吐き、取り分けた皿を紅海の前へ置く
「……どうぞ」
『あ、ありがとう、七海』
いつもと変わらない笑顔だった
それを見て、七海はわずかに目を伏せる
――そもそも、話を振ったのは自分だ
何気ない雑談のつもりだった
少なくとも、そういうことにしておきたかった
本当は彼女がメイド服を着て、生徒たちと接客をしていたことを伊地知から聞いている
どんな姿だったのか…少し気になったから…わざと話を振ってしまった
だが、ウェイトレス、と彼女は言った
わざわざ言葉を選んでいたのは、あの格好について話すのが恥ずかしかったからだろうか
どちらにしても、五条の言葉に困っている彼女を見れば、これ以上話題にするべきではないことくらい分かる
自分自身の好奇心を、もっともらしい雑談の陰に隠した事を申し訳なく思った
『七海?』
紅海に顔を覗き込まれ、七海は手を止めた
「いえ…何でもありません」
『そう?』
「ええ」
短く答え、箸を手に取る
五条はまだ何か言いたそうにしている
紅海が、察してじっと見る
「ほら、紅海、アラサーのMPで魔法描いてあげなよ?」
『もぉ!悟!』
紅海が、頬を赤くして五条を睨む
「何?文化祭ではやってたんでしょ?」
『それは、お店のお仕事だから!』
「ほら、七海と由布湯と伊地知にもやったげなよ?」
「私は結構です」
七海が即答した
「えー?なにそれ、乗り悪いよ~?
じゃ、由布湯は?」
五条が隣へ顔を向ける
遊佐は一瞬、返事に詰まった
「……ぼくは、別に…」
本当は気になる…
「ふーん?別に?気になってるんじゃないの?」
五条の口元が、にやりと上がる
「ほら紅海、特別にやってあげなよ」
「五条さん…ほんまに、余計なことしか言いませんね」
「えー? 僕、みんなに楽しんでもらおうと思ってるだけだよ?」
その言い方が、いかにも楽しそうだった。
紅海はしばらく五条を睨んでいたが、やがて諦めたように息を吐いた
『……もう!一回だけだからね?』
「はいはい」
五条は満足そうに頷き、顎で七海たちの皿を示した