第45章 文化祭とオムライス
══閑話══
任務帰りの車内
運転席の伊地知は、赤信号で車を停めると、ふと思い出したように口を開いた
「そういえば、今日は東京校の文化祭だったみたいですね」
後部座席で資料を確認していた七海が、顔を上げる
「……文化祭の時期ですか」
七海は短く返し、そう言えば流鏑馬さんが準備や申請が大変とか言っていたな…と思い返しながら、再び資料に目を落とした
「虎杖君から聞いたんですが、彼の学年はメイド喫茶をやるそうですよ」
「……メイド喫茶?」
思わず聞き返した七海に、伊地知はバックミラー越しに苦笑した
「なんでも、サプライズで先生にもメイド服を着てもらうとか」
「まさか、五条さ…」
七海が呆れたように呟きかけた、その時
「流鏑馬さんに、だそうです」
「……は?」
一瞬、車内の空気が止まった
伊地知は前を向いたまま、赤信号が青に変わったのを確認して車を発進させる
「虎杖君が、そんなことを言っていましたよ」
「……なるほど」
七海は、手元の資料に視線を戻した
何が、なるほど…だ
なぜ流鏑馬さんなのか
いや、そもそも教師にメイド服を着せるという企画自体、どうなのだ
彼女なら、生徒に頼まれれば断りきれず、結局は引き受けてしまいそうな気がするしかも、本人は真面目に接客しているのではないだろうか
そこまで想像して、七海は眉間を指で押さえた
伊地知は困ったように笑う
「でも、流鏑馬さんなら、きっと似合うんじゃないでしょうか」
「伊地知君」
「はい?」
「そういう問題ではありません」
七海の声は、いつもどおり淡々としていた
ただ、資料を持つ指先には、わずかに力が入っている
――いや、何を気にしているのだ
彼女がどんな格好をしようと、七海が口を挟む理由などない
「……無事に終わっているといいですね」
結局、そう言うにとどめた
「ええ…きっと賑やかだったでしょうね」
伊地知の言葉に、七海は「そうですね」とだけ返した
窓の外を流れる街並みに目を向ける
文化祭は、もう終わっているのだろうか…
七海はひとまず忘れることにした