第42章 影と幽霊
『……ん?』
五条は楽しそうに眉を上げる
「なに、その顔」
『だ、だって……』
「僕が幽霊退治してあげるよ」
『幽霊は呪霊じゃないってば』
「細かいなぁ」
『そ、そういう問題じゃなくて……!』
顔が熱くなる
自分でも分かるくらい、頬が熱い
そんな紅海を見て、表情がやわらぐ
――やっぱ、昔から変わんない
怖いものは怖いくせに、誰かに頼るのは最後まで渋る
助けてほしいと言えばいいのに
「まあ」
五条は壁から身体を起こした
「無理にとは言わないけど」
そして、いつもの軽い調子で続ける
「怖くなったら、いつでも呼んで?」
『……悟』
「ん?」
『……ありがとう』
紅海は真っ赤にした顔で告げる
その声が思ったより素直で、そして意外で…
五条は一瞬だけ黙った
「はいはい」
と、ひらひらと手を振る
「じゃ、ちゃんと寝ろよ?明日眠そうな顔してたら笑うから」
『それ、心配してるのか馬鹿にしてるのか分かんないよ』
「両方」
『もう………
はい、これ…もし食べるんだったら…』
ため息を付きつつ、キッチンから持ってきた容器を渡す
作り置きしていたオカズらしい
『今日、本当は食べようと思ってたんだけど…
生徒達と夕飯食べちゃったし
明日になると、さすがに傷むだろうし…もしよかったら』
五条は保存容器を眺めたあと、紅海を見る
『……なに?』
「いや、こういうの、普通にやるんだなと思って」
『だって、余っちゃったし…普通に昨日の残りだよ?」
五条は軽く笑って、容器を片手で持ち上げた
「じゃ、ありがたく貰っとく」
『うん、容器はいつでも良いよ』
紅海もつられて笑った
ほんの少し前まで、幽霊の話を思い出して怯えていたのが嘘みたいだった
五条はその顔を見てから、ロールカーテンを下げる
「じゃ、おやすみ」
『うん。おやすみ、悟』
静かになったリビングで、五条は手の中の保存容器を見下ろした
紅海は、いつもそうだ
自分が誰かに何かをして貰うと、すぐ気にするくせに
自分が誰かに何かをすることには、驚くほど無頓着だ
五条は小さく息を吐く
「……ほんっと、そういうとこだよ」
誰に聞かせるでもなく呟いて
明日の朝、空っぽにして洗って返そう
きっと、紅海は喜んでくれる
五条は、保存容器をレンジに入れた…