第42章 影と幽霊
――大丈夫、大丈夫
作り話と思おう
そう思っていた
ところが
「じゃあ次、伏黒な!」
「何で俺なんだよ」
「こういうの得意そうじゃん」
「意味が分からない」
「釘崎は?」
「あるわよ」
釘崎が、雰囲気を出して話し出す
そして、終わった頃に、虎杖が紅海の方に平気な顔を向ける
「先生は?」
紅海の箸が止まった
『え!?』
「先生も一個くらいあるでしょ?」
『……えっと…な、いよ?』
「じゃあ、もうイッチョ、俺が…」
虎杖の怪談が続く
『……』
生徒の前で怖いから止めて、などと言えなかった
そして気付けば
夕方から始まった怪談大会は、日が沈んでも続いていた
紅海は、怖くない顔をしていた…つもりだ
少しだけ足元だけは、ほんの少し野薔薇の方へ寄っていた
誰も気付かない
そして、ようやく解散になった頃には、外はすっかり暗くなっていた
「じゃあ先生、また明日!」
『うん…また明日ね』
「お疲れさまでした」
『お疲れさま』
三人の姿が遠ざかっていく
紅海も宿舎へ向かって歩き出した
耐えた…自分を褒めてあげたい!
でも…
――静かだ
昼間なら何とも思わない道だった
見慣れた校舎や外灯…周りの木々が揺れる
今日は妙に暗く感じる
秋の日暮れは早い
昼間まで明るかった空は、もう群青色に沈んでいた
『……』
紅海の歩幅が、ほんの少しだけ速くなる
背後で――カサッと音がした
『……っ』
足が反射的にに止まる
恐る恐る振り返るが誰もいない
「……風、だよね」
小さく呟く
自分に言い聞かせるような声だった
歩く…するとまた――カサ、カサッ
『……』
今度は振り返らない…いや、振り返れない
歩く速度だけが、明らかに速くなった
宿舎までは、もう少し
なのに…さっきまで生徒たちと笑っていたのに
放課後の怪談の一つ一つが、やけに鮮明に頭の中へ蘇ってくる
『……幽霊なんて、いない…多分』
誰に言うでもなく呟く
『……いない、いない』
その言葉とは裏腹に
紅海は、誰もいない背後を一度だけ振り返った
そして、また早足になる
宿舎の明かりが見えた瞬間
紅海の顔には、明らかな安堵が浮かんだ