第41章 事務と信頼
══閑話══
高専時代
昼休みに食堂の一角で、紅海は七海と灰原の向かいに座っていた
『ごちそうさま~』
紅海が箸を置いた、その時だった
「紅海さん!」
灰原が身を乗り出す
『ん?』
「どうして伊地知だけ、変な名前で呼ぶんですか?」
『へ、変!?変じゃないよぉ』
紅海は不思議そうに瞬きをする
『可愛いでしょ? イッチーってネーミング』
「じゃあ僕も!僕もハッチーとか、ユウッチーとか!あだ名付けて下さいよ」
『……え…ハッチー?』
紅海が灰原を見つめる
「どうです?」
『……語呂感が、とてつもなく合ってない気がする……』
「ええっ!?」
灰原が露骨に肩を落とす
七海は味噌汁を飲みながら、ちらりと紅海を見る
「そもそも、何故伊地知だけ愛称で呼ぶんですか?
そんな事をするから、灰原が羨ましがって…」
『うーん?』
紅海は少し考え
それから、申し訳なさそうに笑った
『だって、灰原は灰原だよだから、普通に呼んでるだけ』
「ひどい!普通!」
灰原は抗議に出る
『だって……イッチーは、初めて会った時に、私が声を掛けたらビクってしてたから』
「ああ……」
七海が納得する
紅海は、少しだけ目を伏せた
『だから、もっと仲良くなれたらいいなって思って……』
そして、慌てたように付け足す
『あ、でも別に、灰原や七海と仲良くなりたくないって意味じゃなくて!』
「……」
灰原がじっと紅海を見る
「七海」
「どうした?」
「なんかさ」
灰原が真剣な顔で七海に言った
「僕らが一年だった頃より、紅海さんがちゃんと先輩してない?」
七海は困ったように眉を寄せる
「……まあ、確かにそうですね」
「だろ!?」
『もぉ……』
紅海は頬を膨らませる
『三年にもなれば、先輩ヅラも慣れてくるんだってば』
「先輩ヅラって自分で言った!」
「灰原、流鏑馬さんを困らせるなよ」
七海がため息をつく
「でも納得いかない!」
『もう……』
紅海は困ったように笑う
その向かいで、灰原はまだ「ハッチー…ユッチー?…」とか、色々と呟いている
その姿をみて、紅海は、へにゃっと笑う
七海だけが、その横で澄まし顔で、味噌汁を飲んだ