第41章 事務と信頼
五条は、流鏑馬さんに対して少しばかり遠慮がない
他の人間には、もう少しだけ「五条悟」を作っている
軽薄で余裕があって
何でも見透かしているような顔をして
それが五条悟という人間の一部なのだろう
けれど、紅海の前では時々、その輪郭が崩れる
そんな五条さんに流鏑馬さんも、何だかんだ許容している
けれど、間違っていると思えば普通に注意するし
変に畏まらない
だから彼も、構えなくていい
――お似合いなのかもしれない
そこまで考えて
伊地知は、ふと一つの疑問を覚えた
五条は流鏑馬さんのことを、好きなのだろう
今まで見てきた二人を思えば、そこに疑いを挟む余地はあまりなかった
それなのに
どうして、何も言わないのだろう
五条悟が、その気になれば
誰かに好かれることなど、難しくもない
ましてや、恋愛に臆するような人間でもない
……少なくとも、伊地知の知る五条悟はそういう男ではない
では、何が引っ掛かっているのか
五条家の面倒な事情か
あるいは、紅海と恋人どうしになった場合
彼女に危険がおよぶのでは?という懸念か…
どれも有り得そうではある
だが――
「……まさか」
伊地知は、そこで考えるのをやめた
勇気がない
そんな言葉が、頭を掠めたからだ
「……いや」
あり得ない
あの五条悟に限って
けれど相手が流鏑馬さんなら、話は別なのかもしれない
何でもできる人間ほど
本当に失いたくないものの前では、妙に慎重になることがある
伊地知は、そこまで考えてから小さく息を吐いた
余計なことを考えすぎた。
これは五条と紅海、二人の問題だ
自分が口を挟むことではない
それに
もし本当に五条が何かを決めたのなら、あの人は自分で動くだろう
伊地知は、そういう人間だと思っている
「……流鏑馬さん」
『ん?』
「いえ」
『なに?』
「何でもありません」
『またそれ?』
紅海が少し不満そうに眉を下げる
伊地知は苦笑した
「……仕事に戻りましょう」