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【呪術】もしも、希望の隣に立てたなら。【廻戦】

第41章 事務と信頼




そして、ある日
任務から戻った廊下で、紅海が突然言った

『ねえ、イッチーって呼ぶの、どう?』
「……イッチー?」

『うん、可愛いと思うんだけど』

「……」

伊地知は困った
しかし、先輩が嬉しそうに笑っている

「……いいと思います」
『ほんと? じゃあ、今日からイッチーね』

「はい」
その日から、本当に「イッチー」と呼ばれるようになった

紅海に悪気など一切ない
むしろ後輩ができたことが嬉しいらしく、任務のたびに
『イッチー、大丈夫?』
『イッチー、ここ危ないよ』
『イッチー、ちゃんとご飯食べた?』

と声を掛けてくる
伊地知は次第に、その呼び方にも慣れていった

むしろ――少し、嬉しかった
そんなある日

任務帰りの廊下で、紅海がまた笑った
『ね、イッチー』
「はい?」

『今日、頑張ってたね』
「……ありがとうございます」

その笑顔を見て
伊地知はふと思った

――訂正しよう
今なら…
今なら、ちゃんと言える

「あの……」
『うん?』

「僕……」
紅海が首を傾げる
「僕、イチジではなくて……」
一度、息を吸う

「イジチなんです」
「…………」

紅海が固まった

数秒

『え!?』
その声に驚き伊地知の肩が跳ねた

『え、えーーー!?』
廊下に紅海の声が響いた

『イチジじゃないの!?』
「はい……」

『ずっと!?』
「ずっとです……」

『えええ……!』
紅海は両手で口元を覆った
顔が見る見るうちに赤くなる

『ご、ごめん! 私、ずっと間違えてた!?』
「はい……」

『しかも、イッチーって……』
「……はい」

『あだ名まで作っちゃった……』
「……はい」

紅海はしばらく絶句したあと、見るからにしょんぼりと肩を落とした
『……ごめんね、イジチ君』

「いえ」
『今から直すね』

『……イジチ君……イッチー…うーん』
「……まあ、その……」

紅海が顔を覗き込む
『なに?』

伊地知は少しだけ笑った
「イッチーでも、いいですよ」

『……ほんと?』
「はい」

紅海の顔がぱっと明るくなる

『じゃあ、イッチー、宜しく!』
「はい」

それが、二人の間に最初にできた小さな呼び名だった
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