第41章 事務と信頼
監視下に置かれてからは、紅海の任務は目に見えて減った
以前なら、依頼が入れば当然のように現場へ向かっていたが…今は違う
術師としての能力に問題があるわけではない
むしろ逆だ
紅海の中にあるものを考えれば、任務先で何が起こるか分からない以上、必要以上に現場へ出すべきではない
そんな判断が下されていた
だから空いた時間には、伊地知の事務仕事を手伝うことが増えた
「……これ、先日の任務報告書ですね」
『うん、ここって、場所まで詳しく書いた方がいい?』
「そうですね…分かる範囲で構いませんので、出来るだけ具体的にお願いします」
伊地知が書類の端を指で示す
「後から同じ場所で呪霊が発生した場合、以前の記録があると対策を立てやすいので」
『そっか…じゃあ、こっちも書いとくね』
「ありがとうございます」
事務室には、紙をめくる音とキーボードを叩く音だけが響いている
紅海は机に向かい、時折伊地知に確認を取りながら書類を片付けていく
こういう作業は嫌いではなかった
戦闘と違って、答えが急に必要になることもない
自分が書いたものが、誰かの次の仕事を少し楽にする
それだけで、何となく役に立てている気がする
そんなことを考えていた時だった
「あ……」
伊地知が小さく声を漏らした
『ん?どしたの?』
「いえ……」
伊地知は机の端に置いていたスマートフォンを見る
マナーモードにしていたらしい
画面には着信が表示されている
《五条悟》
紅海も画面を覗き込んだ
『あ、悟だ』
伊地知は、電話に出ようとしない
むしろ、画面を見た瞬間から、ほんの少しだけ顔が曇っている
『……出ないの?』
「……」
伊地知は困ったように眼鏡を押し上げた
「出来れば、気付かなかったことに出来ないかと思いまして……」
『ふふっ』
紅海は思わず笑ってしまった
『悟、また何か頼みそう?』
「十中八九、そうだと思います」
着信は止まらない
伊地知は観念したように息を吐いた
『話しにくい内容なら、私、席外そうか?』
「あ、いえ! そういうことではありません」
「ただ……」
また着信画面を見る…まだ切れてはいない