第40章 母と姉
縁側の空気が、少しだけ緩んだ
紅海が買ってきた袋を膝の上に置いて、中身を確認していると
「じゃ、そのポッキーもーらいっ!」
「え?」
五条の手が伸びる
『あー! 私のだよーっ!』
気付いた時には遅かった
五条はポッキーを三本ほど器用に取り出し、そのまま口に咥える
「ん」
『ちょっと!』
「隙を見せた紅海が悪い」
『そんなルール聞いてない!』
「今作ったから」
ポキ、ポキ、と小気味よい音がする
紅海は恨めしそうに五条を睨んだ
『……私のポッキー』
「まだあるじゃん、食べなよ?」
『そういう問題じゃないよぉ』
五条は悪びれもせず、もう一本口に咥えた
『あぁーっ!』
「隙有り!」
その顔があまりにも楽しそうで、紅海は呆れたように息を吐く
『……じゃあ』
「ん?」
紅海の視線が、五条の隣に置かれた袋へ移る
『悟の、きのこの山、貰う』
「お……」
紅海が手を伸ばした瞬間
『一個だけね』
「させるかー!」
今度は五条が慌てて袋を抱え込む
『えっ、なんで!?』
「僕のだもん!」
『私のポッキー取ったじゃん!』
「それとこれとは別!」
『ずるい!』
「世の中そんなに甘くないんだよ、紅海」
『甘いもの食べながら!?』
五条は袋を抱えたまま、けらけら笑う
紅海もとうとう堪えきれずに笑った
「はぁ、しょうがない……一個だけなら」
『ほんと?』
「一個だけ」
『やった』
紅海が手を伸ばす
五条は袋から一つ取り出して、ぽん、と紅海の手のひらへ落とした
『ふふっ、ありがと』
「どういたしまして」
紅海は嬉しそうにきのこの山を口へ運ぶ
その横で五条は、盗んだポッキーを最後の一本まで食べ終えた
「……やっぱポッキーうまいね」
『きのこの山も美味しいよ』
「でしょ?」
秋の夜
昼間の重い空気は、ほんの少しだけ遠ざかり
二人の間には、昔から変わらないくだらないやり取りで盛り上がる
2人とも、その空気が心地よく感じた