第40章 母と姉
紅海は笑う
『私はね、任務になると、そうはいかないんだよね』
「何で?」
『手合わせなら、負けても自分が痛いだけで済むでしょ?』
紅海は湯呑みの中を見つめる
『でも任務は違う…誰かが怪我するかもしれないし、
私が判断を間違えたら、誰か死ぬかもしれないって思うと…
…どうしても緊張しちゃう』
五条は黙って紅海を見ると彼女と目があった
紅海は少し照れたように笑った
『だから悟って、凄いなって思う』
「何が?」
『どんな時でも、ちゃんと自分の力を出せるから』
「そりゃまぁ僕、最強だからね…」
あまりにも当然のように言う
紅海が吹き出した
『そういうところ』
「何?」
お茶を一口飲む
『そうやって普通に言えるところ…凄い』
「事実だし」
『うん知ってる』
紅海は笑った
けれど、その笑顔には少しだけ羨望が混じっていた
五条はそれを見て、湯呑みに口をつける
「でもさ」
『ん?』
「僕だって、何も考えてないわけじゃないよ」
紅海が瞬く
「少なくとも呪いで人が死ぬのが嫌だから、最強やってるわけだし…」
『……』
「ただ」
五条は空を見上げた
「考えたところで、守れるものには限りがある
僕だけ強くても、しょうがないからね
だから、必要な所で必要なことをする…それだけ」
淡々とした言葉だった
紅海は少し考える
『……そっか』
「だから紅海も緊張するのは、仕方ないよ」
『え?』
「任務で、ちょっとくらい怖いのは普通でしょ?
怖くない奴の方が、僕は信用できないけど」
紅海は目を丸くする
五条はいつものように笑った
「誰かの命が懸かってるのに、何も感じない方がヤバいじゃん、ちょっとくらい緊張する方が用心深いしね?」
『……』
「まあ…そのうえで動けるなら、それでいいんじゃない?」
虫の声が、二人の間を静かに流れていく
五条は横目で紅海を見る
紅海は少しだけ肩の力が抜けていた
「紅海」
『ん?』
「今度、またやる?」
『手合わせ?』
「うん」
紅海は少し考えてから、笑った
『……うん、やりたい』
「じゃ、決まりね?」