第40章 母と姉
「さっき、浅葱さんに言われた瞬間、すごい素直だったじゃん」
「違う」
「何が?」
「私は母に逆らえないわけではない…
単に、あれ以上話しても無駄だと思っただけだ」
「ふーん…つまり、弱いと言う事?」
「……」
千草の目がバックミラー越しに五条を睨む
「呼び方といい、本当に年上に対して失礼な男だな、君は…」
「そう?」
五条は全く堪えた様子がない
「千草さんを縮めてチグサン…これ以上ない親しみを込めた愛称だけどなぁ」
「どこに親しみがある」
「あるある~」
手をヒラヒラとさせる五条
『悟……』
小さな声が横から入り
唇の前に人差し指を立てて
『……しーっ』
五条は目を丸くした
「なんで?」
『叔父さんに失礼だよ……」
「えーそう?あっちが、紅海に、ズケズケも物を言って来てたんでしょ?
こっちも気を遣う必要ないんじゃない?」
『だめだよ……』
紅海が困ったように視線を逸らす
千草は前を向いたまま、低く息を吐いた
「紅海…」
『うん?』
「君が謝る必要はない」
『……でも』
「この男は、昔からこういう性格なのか?」
『……うん』
即答だった
五条が笑う
「紅海、ひどくない?」
『ひどくないよ』
紅海は、これも五条のパフォーマンスだと言う事を知っている
「僕、結構繊細なんだけど?」
「嘘をつけ」
千草が淡々と返した
五条が一瞬黙り、それから吹き出す
「ははっ、チグサン、意外とツッコミが得意だね?」
「そんな事で褒められても…」
「褒めてはないけどね~」
千草は眉をひそめる
五条はシートに背を預け窓の外を見る
「結婚しない理由って、さっき言ってたけど…」
「必要性がないと感じたからしていないだけだ…
仕事もある、生活にも困っていない…
誰かと暮らさなければならない理由も、特にない」
五条は感心したように頷く
「なるほど、合理的」
「そういうことだ…」
紅海が小さく笑った
『多分、お祖母ちゃんは、叔父さんの事が心配なのかも…』
「君は笑っている場合じゃないだろう」
『え…私?』
「君もいい年だ…結婚をしたくない訳でないなら
母さんに、お見合いでも頼んだら良いんだ」
紅海の顔が曇る
『私は……っわあ!』
その時、五条が紅海の肩に、わざとぶつかる