第40章 母と姉
親族の何人かが帰り支度を始める中
挨拶を済ませた紅海は縁側に腰を下ろしていた
昼間に聞いた話が、まだ胸の奥に残っている
けれど、表情には出さない
五条が隣に座ると
いつものように、少しだけへにゃりと笑っている
五条はその横顔を、何となく眺めていた
昔、紅海の高校に呪霊騒ぎの後処理に行った時、出会う前の彼女の事を聞いた事があった
五条は当時、その話を聞いた時から引っ掛かっていた
人に優しくて、頼まれると断れなくて、自分のことを後回しにする
生まれつきかと思っていた性格は、中高の時に出来上がった性格なのかもしれない…と感じていたが
けれど…今日、少しだけ違う可能性が見えた
紅海は、もしかしたら…自分を大切にしていいと、思えなかったのではないか
そして、その根っこには…中高生の頃ではない
五条の視線が、社務所の奥へ向く
千草…あの男の存在が関係有るのではないか
断定するには、まだ何も知らない
ただ…紅海が誰かに否定されることを、簡単に受け入れる理由
それを今日、初めて見た気がした
「紅海?」
『ん?』
「ぼーっとして…どうした?」
『悟こそ、なにか考えてたの?』
「僕はいつもぼーっとしてるからいいの」
『絶対、嘘…悟はいつでも忙しいから、ぼーっとしてる時間無いでしょ?』
小さく笑う
その声に、五条も笑った
やがて浅葱が二人のところへやってくる
「紅海」
『なに?』
「今日、本当に泊まってかないのかい?」
『え?』
宿泊はしないと先日の電話では告げていた
でも、多分、お祖母ちゃんは寂しいんだ…と感じた
「とは言っても、五条んところのもいるけど」
そう言って、浅葱は五条を見る
「でも、ま、うちは広いから…オマケがいても歓迎するよ」
「おまけって僕?」
「他に誰がいるんだい」
「ひど~!」
五条が笑う
紅海は少し困ったように笑って、それから五条を見る
『…でも…えっと…今日は帰らないと』
浅葱が「そうかい?」と首を傾げる
紅海は答えず、もう一度だけ五条を見た