第40章 母と姉
そんなことを考えていると
「でもさ」
五条の声が落ちた
「紅海はね」
千草が顔を上げる
五条は、いつもの軽い笑みを浮かべていた
「あんたのこと、凄いんだよって自慢してきたよ?」
「……は?」
「防衛省に勤めてて、国と呪術界の間に立つ仕事してるんだって
頭いいし、仕事できるし、おばあちゃんも頼りにしてるって」
千草は言葉を失った
五条は肩をすくめる
「自分のことは、あんなに否定的なくせに
叔父さんの話になると、ちゃんと褒めるんだよね」
「……」
「本当、なんなんだろうね…あの性格」
軽口のような言葉
けれど、その目は笑っていなかった
千草の胸の奥に、何かが引っ掛かる
紅海が
自分を?
「……あの子が、そんなことを?」
「うん」
五条はあっさり頷く
「だから余計に分かんないんだよね
自分は大したことない、って顔してるくせに
他人のことになると、いくらでも良いところ見つける」
千草は黙った
そんな姿を、自分は知らない
知ろうともしていなかったのかもしれない
「……」
ふと、今日の紅海を思い出す
自分が姉の話をするたび、俯いていた
それでも
叔父さんは凄いんだよ…
そう言っていたのか
「……愚かな子だ」
ぽつりと漏れた
五条が眉を上げる
「何が?」
「自分を差し置いて、人の事ばかり気にかけて心配する」
千草は苦い顔をした
「昔から、そういうところだけは変わらない」
五条は少し笑う
「じゃあ、叔父さんも知ってるんでしょ?」
「何を?」
「紅海が、自分を大事にしないこと」
千草は答えなかった
五条は、ただ少しだけ口元を上げる
「だったらさ…もうちょっと優しくしてあげれば?」
「……」
「ほんとは嫌われるの、嫌なんでしょ?」
千草は五条を見る
「あなたは、本当に失礼な男だな」
「よく言われる」
「だが…そうだな…否定はしない」
千草は一度だけ視線を逸らした。
五条の目が柔らかくなる
それ以上、二人は何も言わなかった
やがて、台所の方から食器を片付ける音が聞こえて
紅海が戻ってくる
その気配を感じた瞬間、千草はいつもの無表情に戻った
五条も何事もなかったようにスマートフォンへ視線を落とす