第40章 母と姉
2人は、ただ台所から聞こえてくる水音に耳を傾ける
今日、五条はここへ来て初めて分かったことがある
自分が知っている紅海は、ほんの一部分なのだ
「まだまだだなぁ…」
小さく呟く
浅葱が振り返る
「何がだい?」
五条はいつものように笑った
「いや紅海、思ってたより面倒くさい家で育ってんだなって」
「はは、どこの家の術師が言ってんだよ
それにね、どんな育ち方したって、それでも、あの子はあの子だよ」
浅葱が笑う
五条も笑った
「それは知ってる」
その声だけは、妙に迷いがなかった
「さてと…」
浅葱が紅海のようすを見に台所へ引っ込んだ
五条は縁側に腰を下ろし、スマホ画面を見ている
その時、廊下の向こうから足音がした
「……失礼」
顔を上げる
戻ってきた千草と、目が合った
千草は一瞬だけ足を止める
母と紅海がいない
二人きりだと分かったらしい…一息ついて口を開く
「改めて、名乗っておきましょう
流鏑馬千草、紅海の母、小瑠璃の弟です」
五条は座ったまま、軽く手を上げた
「五条悟…紅海の同期、東京校の教師」
「……存じてますよ」
「知ってるんだ?」
「知らない方が難しい」
千草は少し間を置く
「それで今日は、なぜここへ?」
「紅海について来ただけ」
「それだけですか?」
「うん」
あまりにも簡単な返事だった
疑わしい目で五条を見る千草
「五条家の当主が、わざわざ同期の親の霊祭へ同行する…少々不自然に思えますが」
「そう?じゃあ、どう見えるの?」
五条は笑った
「それを、私が聞いているんだ」
「ははっ、質問返しは禁止?」
「答える気がないなら、それでも結構です。」
「ふぅん」
五条は少し面白そうに千草を見る
なるほど…紅海の叔父さん
思ったより、ずっと面倒そうな人だね