第40章 母と姉
昼食が終わり、紅海は皿を重ねた
『おばあちゃん、ゆっくりしてて?私、洗ってくるから』
「いいよ、私が――」
『いいの、たまに帰ってきたんだから、私がやりたいの』
紅海は笑った
浅葱は少しだけ目を細め、それ以上止めなかった
紅海が台所へ消える
その直後、千草の携帯電話が鳴った
「……失礼」
短く告げ、外へ出ていく
社務所には、五条と浅葱だけが残った
五条は湯呑みを手に取った
しばらく何も言わない
やがて、口を開く
「浅葱さんさぁ…」
「なんだい?」
「千草さんって、いつもあんな感じ?」
浅葱にしては、めずらしく言いにくいようすだ
「……そうだねぇ…あの子には困ったもんだよ」
五条の表情は変わらない
「毎年?」
「毎年」
五条は「ふぅん」とだけ返す
彼の視線は台所の方へ向いている
「紅海、あんな事、言われて全然、反論しないよね」
「しないね…」
「昔から?」
「そうだね、昔から」
浅葱は小さく息を吐いた
「あの子はね、自分が悪くなくても、相手の気が収まるなら自分が謝れば良いと思っちまうところがある」
五条の眉が、僅かに動いた
「……なるほどね」
「千草も悪い子じゃないんだよ
紅海の母…小瑠璃が大好きだったからね」
「亡くした時は、まだ紅海も赤ん坊だったし…
だから、あの子を責めることはしなかった
逆に、あの子を守らないとって思ってただろうね」
五条は黙って聞いている
「でも、あの子の父親まで亡くなった時から、千草の中で何かが変わった…紅海が原因なのかもしれない…ってチラついたんだよ
…もしかしたら、理不尽な不幸に、理由がほしかったのかもしれない」
五条の前に、饅頭の入った菓子器を差し出す
「紅海のせいじゃない…そんなことは、あの子だって分かってる
だけどね…人間ってのは、悲しい時にいつも正しいことを考えられるわけじゃない」
五条は湯呑みを置いた
「……面倒くさいね」
浅葱が苦笑する
「そうだね、面倒くさい…でも紅海も、千草も…どっちも小瑠璃を失った人間なんだよ」
五条の中で、どっちが悪いとは言えない
「それ言ったら、浅葱さんも娘さんを失った側でしょ?」
浅葱は微かに笑った