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【呪術】もしも、希望の隣に立てたなら。【廻戦】

第40章 母と姉


霊祭は静かに始まり、静かに終わった
紅海は母の名が読み上げられる間、目を閉じていた

記憶にはない母
顔も、声も、抱きしめられた感触も覚えてない

それでも
母が、この地に眠っていることだけは知っている

祈りを終え、顔を上げる
隣に五条がいる

それだけで、紅海は少しだけ安心した

霊祭が終わると、浅葱が手を叩いた
「さぁ、昼にしようかね」

社務所には、朝から仕込んでいたちらし寿司が並べられた
「小瑠璃もね、これが好きだったんだよ」
浅葱が笑う

『……そうなの?』
紅海の顔が少し明るくなる

「あぁ、子供の頃は、具ばっかり先に食べてねぇ」
『へぇ……』
紅海は嬉しそうに聞いている

自分にはない母の記憶
だから、こういう話が好きだった

わざと、浅葱が加えて言う
「紅海と同じだね」
『えっ…私、そんなに具だけ食べる?』

「確かに、こないだ食べてたかも」
五条が横から言う

『もう、悟まで……』
小さな笑いが起こる

その輪の中で、千草は黙っていた
姉の話を聞いて…その表情は笑っていない

「……姉さんは」
千草が口を開いた
空気が少し変わる

「最後まで、紅海のことを気にしていた」

紅海の箸が止まる
浅葱が千草を見る

「千草…」
千草の表情は読めない…
「事実だろう?」
「そうだけど」

「姉さんは、この子を守って死んだんだ…それも事実」

紅海は俯いた
『……』

「義兄さんもだ…二人とも、紅海を守ろうとして死んだ」
その言葉に、紅海の指先が僅かに強張る

しばらく沈黙が続く
やがて紅海が、小さく口を開いた

『……ごめんなさい』

五条の視線が紅海に向く
五条が驚いたのは、両親が紅海を庇って亡くなったという事実ではなかった

――その話を本人の前で平然と口にすること

そこだった
「紅海…お前が謝ることじゃないよ」
浅葱の声が落ちる

『……でも』

「いいから…千草、その話しは、ここまでにしな」
浅葱は千草を見る

千草は黙った
紅海は何も言わない


五条も口を挟まなかった
今ここで何か言えば、紅海がまた自分のために気を遣う
それが分かるからだ

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