第40章 母と姉
胸の奥で、昔から聞き慣れた言葉が静かに沈んでいく
……そう、だよね…お母さんは私を守って死んだ
お父さんもそう…
それは変えようのない事実
だから、叔父さんが、そう思うのも当然なのかもしれない
千草は何も言わない紅海の前で、ため息をつき
「改めて、五条さんには、挨拶に行く」
それだけ告げると、五条の方へ一度、ペコリと頭を下げ
親族の和の中に入っていった
紅海は小さく息を吐く
「だれ?」
五条は、浅葱に小声で聞く
「名前は、千草…紅海の母の弟…ようするに、うちの息子…」
ふーんと、五条は興味ないような有るような返事
「 呪術師でね、今は防衛省勤め…今日は仕事を休んで来たんだ」
防衛省…
その単語を聞いた瞬間、五条の思考が一瞬だけ切り替わる
防衛省………表向きはそうだろうね…実際に働いてるだろうけど
呪術師が国と無関係でいられるはずがない
五条は納得したように頷いた
「随分なエリートが親戚にいるんだね」
軽い口調だった
『はぁ…緊張したぁ』
「おかえり、叔父さんなんだって?」
『うん…』
千草の背中が人の輪の向こうへ消えていく
紅海はその姿をしばらく見送っていたが、ふと五条を振り返った
『……叔父さんね、凄いんだよ
国と呪術界の間に立つ仕事をしてるみたい
詳しいことは私もよく分からないんだけど……昔から仕事ができる人で
おばあちゃんも、叔父さんのこと凄く頼りにしてるし』
いつもより、よく話す紅海に五条は質問する
「仲悪い?なんか言われてた見たいだけど」
その問いに、紅海は少しだけ考えた
『……うん』
ほんの一瞬、言葉が止まる
『叔父さん、私にはちょっと厳しいんだけど…
…でも、お母さんのことが大好きだったから…』
紅海は困ったように笑った
『だから、私のことを見ると、お母さんのこと思い出しちゃうのかもしれない』
千草の背中へ目を向ける
『でも、叔父さんが悪い人だとは思ってないよ』
五条は少しだけ紅海を見る
「紅海らしいねぇ」
『そう?』
紅海は笑った
『だってお母さんの弟だもん』
ただ、どこか寂しそうだった