第40章 母と姉
小瑠璃の霊祭の日
タクシーが山道を抜ける頃には、景色はすっかり秋の色になっていた
朝の冷たい空気が、少しだけ窓の隙間から入り込む
紅海は窓の外を眺めながら、見慣れた山の形を目で追っていた
「懐かしい?」
隣で五条が紅海の横顔を見る
『うん…』
少し間を置いて、紅海は笑った
『……やっぱり、帰ってくると落ち着くね
って、こないだも、七海についてきて貰ったんだけどね』
五条は窓に肘をついて外を見る
「だね、厄介な案件貰ってきたよね」
『えっ、お見合いの事?』
「そう…どこの家も、後継ぎとかうるさいもんだよね」
『悟もそーなの?』
紅海は、バッと五条の顔を見る
「ははっ」
曖昧にはぐらかす
やがて車が神社の境内へ入り、車を降りた
砂利を踏む音
木々のざわめき
古い社殿
紅海にとっては、子供の頃から何度も見てきた景色だった
「そー言えば、ここ、随分前にも来たよね」
『うん、高専の時に、みんなでバーベキューした』
「硝子、ずっと座ってたよね」
『悟もお肉ばっかり食べてた、で、しかもすぐに、明日任務だからって帰ってった』
クスクス笑う紅海
「あの時から僕って、人気者だったんだよね~」
『あの時、"本当は道場で修業するの嫌だった説" が流れてたよ?』
「げ~っ!マジメに任務こなしてたのに~!」
「あはは、日頃の行いだよ~」
その笑顔を見て、五条も口元を緩めた
2人は鳥居をくぐる
けれど、数歩進んだところで、紅海の表情が少しだけ硬くなった
今日の目的を実感したから
「紅海」
『ん?』
「緊張してる?」
図星をつかれて、紅海は苦笑する
『……少しだけ』
「お母さんの事思い出した?」
『それもあるけど』
返事は途中で止まる
本当は違う
叔父と毎年顔を合わせるたび、胸の奥に小さな棘を残される
それでも嫌いにはなれない…母のたった一人の弟だから
『行こっか』
自分に言い聞かせるように歩き出した、その時だった
社務所から浅葱が出てくる
「おや」
紅海の顔を見た瞬間、浅葱の表情が柔らかくなる
「おかえり、紅海」
『おばあちゃん』
紅海が駆け寄る
浅葱はその頭を軽く撫でる