第40章 母と姉
へへへ…と、照れ隠しのように笑うしかなかった
長い付き合いだ、誤魔化せるとは思っていない
少しだけ沈黙が流れる
『……来週ね』
紅海がぽつりと口を開く
『お母さんの命日なの』
五条の表情から笑みが少しだけ薄れた
『神社で霊祭があるから、おばあちゃんから帰っておいでって電話があって
でも……監視のこと、おばあちゃんには話してないし…
だから、一人じゃ帰れないって説明もできなくて』
ようやく言葉にすると、胸の奥で絡まっていたものが少しほどけた気がした
五条は「なるほどね」とだけ呟く
少し考える素振りを見せてから、肩の力を抜いたまま言う
「そのまま言えばいいじゃん」
『……え?』
「僕も同行しました、って」
あまりにもあっさりした答えに、紅海は目を丸くする
『そんな簡単に……』
「簡単だよ」
五条は紅海を見る
「理由を聞かれたら、その時、隠さずに説明すればいい」
『え~、でも、それはそれで、おばあちゃん心配するよ』
「浅葱さんだろ?」
五条は少し笑った
「あの人、ちゃんと話せば聞いてくれる人じゃん」
『……』
「逆に隠し事される方が、嫌なんじゃない?」
その一言に、紅海は返事ができなかった
浅葱の顔が浮かぶ
嘘をつけば、きっと見抜かれる
それでも何も聞かず、笑って送り出してくれる人だ
『……そう、かも?』
「そう」
五条は缶コーヒーを飲み干す
「それに僕が同行すること自体は、仕事だからと思えば良いよ
紅海が気にする話じゃない」
言い切る声は、いつも通りだった
特別な優しさでも慰めでもない
だからこそ、紅海は少しだけ肩の力を抜いた
『……ありがとう』
その言葉に、五条はいつもの調子で笑う
はい!と、手をパンっと合わせ
「じゃ、浅葱さんに怒られないよう、ちゃんと予定組もうか?」
その軽い口調に、紅海もようやく小さく笑った
けれど胸の奥には、もう一つだけ消えない不安が残っていた
叔父の千草の事だった