第40章 母と姉
頭の中には、いくつか悩みが並んでいる
監視のことを、どう説明するか
誰に付き添いを頼むのか
そして——
今年も千草に、会わなければならないこと
窓の外では、秋風に木々が揺れていた
紅海は小さく目を閉じる
母の命日が近付くたび
胸の奥に沈めた記憶まで、一緒に揺れ始める
職員棟の廊下は、人の気配も少なく静まり返っていた
紅海はスマホを耳から離し、小さく息をついた
画面には、通話を終えたばかりの表示が残っている
母、小瑠璃の命日が近い
今年も神社で霊祭を執り行うから帰っておいで
それだけの電話だった…
けれど、"その日に帰る"が、今の紅海には簡単ではなかった
……どうしよう
監視下に置かれている事…
適当な嘘をつけば、浅葱はきっと見抜く
長年術師として生きてきた人だ
誤魔化せる相手じゃない
……悟…自然と、その名前が浮かぶ
同行するなら、よっぽどの任務がない限り、おそらく彼になる…多分
けれど毎日、誰よりも忙しく動いている人
そんな悟の予定を、自分の事情で空けてもらうなんて
申し訳ない……
頼めば来てくれる
それくらいは分かっている
だからこそ、頼みづらい
「何ため息ついてんの?」
突然、後ろから、五条は覗きながら声をかける
『ひゃっ!』
肩を震わせて振り向く
『……悟」
「そんな驚く?ボーッとしすぎでしょ?」
缶コーヒーを片手に、五条が立っていた
「今の紅海なら特級呪霊にも気付かなそう」
『それは言い過ぎだよ!』
思わず苦笑が漏れる
五条は紅海の顔を一度見て、缶を軽く揺らした…
「で、何?」
『え?』
「いや、その顔…何かあった顔でしょ」
身体を折って、紅海を覗き込む
『んー、そんな顔してた?』
「うん」
間髪入れず返ってくる
「紅海って、考え事してる時、分かりやすいんだよね」