第37章 都と帳
「未確認の二重の帳を確認しています…
現在、現地呪術師と、補助監督が対応中」
ペラリと資料をめくる音が聞こえる
「一般人が帳の間へ多数取り残され、呪霊の発生を確認しています」
夜蛾は資料へ目を落としたまま問う
「被害は?」
「現在確認中ですが、まだ死者は出ていないようです
ですが、現地判断では京都校だけでは人員不足とのことで」
部屋へ短い沈黙が落ちる
その時だった
コンコン、と軽く扉が鳴る
部屋中の視線が集まる
返事を待たずに白髪の男が顔を覗かせた
「お疲れ~、待たせたね~?」
遅刻の常習者なので、このくらいは許容範囲内だ
「伊地知、廊下まで難しい雰囲気だだ漏れてたけど?」
笑いながら部屋へ入る
だが机へ広げられた地図を見た瞬間、その笑みがほんの少しだけ薄れた
「……京都?」
伊地知が頷く
「総監部より正式な応援要請です」
五条は資料を受け取る…一枚目を流し見る
「二重の帳ねぇ」
小さく呟く
「珍しいことするね」
軽い口調
だが、六眼は紙面以上の情報を拾っていた
帳の構造、範囲、報告時刻…現地術師の配置
それらを数秒で頭の中で整理していく
夜蛾が口を開く
「総監部は、1級が第一希望…空いてなければ2級以上の術師を増援として派遣するよう要請してきた」
伊地知が次の資料を差し出す
「条件に優先順位があります…京都市内の地理に精通していること
広域任務の経験が豊富であること…」
五条は資料を閉じる前に、一枚だけ視線を止めた
候補者…第一に思い付いたのは一人の名前しかなかった
――流鏑馬紅海
伊地知が静かに続ける
「……ですが…現在、流鏑馬さんは監視措置の対象です…一応、こちらでの任務は補助監督つきで了承は得ていますが…京都となると…」
再び静けさが落ちる
夜蛾は腕を組んだ
「総監部は、今回に限り、監視措置の例外運用を認める、と通達してきている」
五条は何も言わず資料を閉じた
窓の外へ視線を向けると秋の空は、驚くほど穏やかだった