第37章 都と帳
漏瑚の口元が吊り上がる
「面白い、そうすると…強くなるのは儂らか」
「いや」
羂索は静かに首を横へ振った
「環境だね…この釘を通して、人間自身が、自分たちで呪霊の棲みやすい戦場を作る…呪霊にとってのバフ効果ってやつだね」
羂索の頭の中では、既に何手も先まで盤面が進んでいる
羂索は再び街を見つめる
賑やかな灯り、何も知らず笑う人々
その景色を眺めながら、小さく呟いた
「さて…実験を始めようか」
その笑みだけが、夜の闇に静かに溶けていった
京都の夜風が、山を抜ける…その風が街へ降りていった
街灯の下では、修学旅行生たちが笑いながら写真を撮っている
夫婦が手を繋いで歩く、外国人観光客がお土産を買う
日が暮れ始めて、店先では店員が暖簾を下ろし始める
いつもと何も変わらない夜
遊佐由布湯は仕事を終えて、坂道を下り…
今日のご飯のメニューを考える…が違和感を感じる
「ん…?なんや、あの猫」
一匹の野良猫が、不意に足を止め耳を伏せ
何もない闇を見つめたまま、低く唸っている
天敵がおるんか?それとも、ネズミ?
次の瞬間、ニャーと、弾かれたように路地裏へ駆け込んだ
街路樹では、止まっていた鳥たちが一斉に羽ばたく
羽音だけが夜空へ広がり、虫の声が、ふっと途切れた
「……なんや…変な空気やなぁ…こわ…」
遊佐は何かを感じるが、それが何かが解らない
解らないからこそ不気味に感じた…
そして、そのまま
誰も気付かない
誰も空を見上げない
京都の夜は、いつもと変わらず静かだった
だからこそ…
その静けさだけが、どこか不自然だった
京都の夜が明ける
朝になると、何も知らない人々が
いつものように働いて、いつものように観光に来る…
一つ違っていたのは
選ばれた観光地で、 羂索の設置した呪具…そして、呪詛師が動き始めるのだ