第36章 お見合いとデート
その直後、また大きな効果音
『…!』
紅海の指先が、ポップコーンの箱を少しだけ強く掴んだ
五条は思わず口元だけ緩める
驚いている、驚いてる
その割りに、視線も逸らさない
少しして、紅海は何事もなかったように塩味を一粒口へ放り込んだ
その姿が何だか可笑しくて、五条もキャラメル味を一粒摘まむ
スクリーンでは激しい攻防が続く
誰も喋らない、場内には映画の音だけが響いていた
やがて物語は終盤を迎え、エンドロールが流れ始める
館内が少しずつ明るさを取り戻す
周囲の観客が席を立ち始めても、二人はしばらくそのまま座っていた
最後の音楽が流れ終わってから、五条が立ち上がる
「行こっか」
『うん』
空になった紙コップを手に、ゆっくりとロビーへ出る
映画館の外は、休日の賑わいが戻っていた
明るい声が飛び交い、人の流れが行き交う
その中で、紅海がぱっと五条の方を向く
『ねぇ、悟!』
「ん?」
『途中の通路のアクションシーン見た?』
五条は少し笑う
「そこなんだ?」
『あの体勢…あの間合い』
紅海は両手を使って身振りを交えた
『狭い場所で一回重心を落としてから横へ抜けるでしょ?』
「うん」
『あれ、近接戦だと結構使えそうなんだよね』
映画を思い返しているというより、任務を分析している顔
五条は肩をすくめる
「休みの日まで術師してるねぇ」
『違うよ』
紅海は少し笑う
『映画のアクションって、たまに参考になる時あるんだよ』
「ほら、職業病」
紅海を指差す
『悟だって、アクションシーン見てたでしょ?』
「…まぁ」
否定はしなかった
戦う人間の癖は嫌でも目に入る
それは五条も同じだった
『ほら~』
少し得意そうに笑う
その笑顔を見て、五条はふっと息を吐いて歩きだす
「で?怪物は?」
『怖かったかな』
「じゃあ、やっぱり大丈夫じゃなかったんだ?」
『びっくりするのと、幽霊は違うの!』
口をとがらせ、少しだけ頬を膨らませる
五条は声を出して笑った
「ぶはっ…ほんと、面白い…
あ、そーだ、そろそろ腹減ったと思わない?」
『ポップコーン食べたのに?』
「キャラメル味は別腹だからね」
『何それ』
紅海も笑う
休日の人波の中を並んで歩く
今日という一日は、まだ少しだけ続いていくようだった