第36章 お見合いとデート
けれど…紅海の笑い方…少し社交辞令かな?
長く見てきた五条には、その違いが分かる
「流鏑馬さんは、お休みの日は何を?」
『えっ、と、漫画読んだり、ゲームしたり……あと、お菓子とか作ったり』
「料理がお好きなんですね」
『好きというより……自分が食べるのが好きなのと…
他に食べる人がいると、つい多めに作っちゃうだけで…
この間も、お好み焼きいっぱい作りました!』
そこで紅海は、少し照れたように笑った
五条は一瞬、キーボードを打つ指が止まる
その言葉は、五条や誰に向けたものでもない
彼女は、ただ事実を話しただけ
けれど、その「食べる人」の中に、自分が含まれていることを思い出す
そういえば、任務で帰りが遅い日に
「多く作りすぎたから作ったの、食べる?」と声を掛けてくれる
そんな何気ない日常が、一瞬だけ頭をよぎった
「五条様」
襖の外から店員が控えめに声を掛ける
「お食事はいかがなさいますか?」
五条は視線を上げ、いつもの調子で笑った
「あ、じゃあ…コレと…この甘味も追加で」
「かしこまりました」
店員が去っていく
再び静けさが戻る
襖の向こうでは、お見合いが穏やかに進んでいる
程なく湯気の立つ抹茶と、食後の甘味が運ばれてくる
五条は匙でクリームあんみつをすくい、口へ運んだ
「……うま」
その一言だけ呟くと、また静かに向こうの会話をBGMに仕事を再開する
和やかな空気のまま、食事は終わりへ近づいていた
浅葱は湯呑みを静かに置き、満足そうに頷く
向かいに座る男性も終始穏やかだ
話題は仕事や神社のこと
東京と地方の術師事情
無理に踏み込んでくることもなく、こちらの話を遮ることもない
――良い人だ
紅海はそう思った
だからこそ、少しだけ胸が痛む
最初から、この出会いに前向きではない自分が申し訳なかった
「今日はありがとうございました」
男性が丁寧に頭を下げる
『こちらこそ、ありがとうございました』
店を出るため立ち上がる
浅葱は会計の確認で少しだけ席を外した
廊下へ出たところで、男性が控えめに声を掛けた
「あの」
『はい?』
少し照れくさそうに笑う
「今日はとても楽しかったです」
紅海は柔らかく微笑んだ
『ありがとうございます』
「もし、ご迷惑でなければ……また、お会いできませんか」