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【呪術】もしも、希望の隣に立てたなら。【廻戦】

第36章 お見合いとデート


窓から、店に入る男が1人見えた

三十前後
落ち着いた身なり
強くは無さそうだが、呪術師だ
歩き方にも無駄がなく、礼儀も身についている

悪い印象は受けない
男は店員に案内され、紅海たちの個室へ向かった

ほどなくして、襖越しに声が聞こえ始める
『はじめまして流鏑馬紅海です。よろしくお願いします』

普段と違う少しだけ緊張した声
初対面の相手へ向ける、少し硬い話し方だった

五条は、温かいお茶を一口飲む

襖一枚向こうから、穏やかな自己紹介が続いている
五条は静かに湯飲みを置きパソコンを開き仕事を始めた

「本日は、お時間をいただきありがとうございます」
落ち着いた男の声
『いえ、こちらこそ……』

紅海の返事は少しだけ硬い、慎重な話し方だ
五条は湯飲みを持ったまま耳を澄ませるでもなく、静かにお茶を口へ運ぶ

「高専で教師をされているんですよね」
『はい…今は東京校で一年生を担当しています』

「教師は大変でしょう?」
『大変ですけど……楽しいですよ』
少しだけ笑う声が聞こえた

その笑い方に、五条は自然と肩の力を抜く
無理をして笑っている声ではない

ただ、人見知りの紅海が、相手に失礼のないよう言葉を選んでいる

「術師になったきっかけ、お聞きしても?」

少し間が空く
『……事情があって、高校一年の夏に呪術高専へ編入したんです』
「そうでしたか」

それ以上、相手は踏み込まなかった
途中から編入することも珍しくはないから

そして、聞いていいことと、そうでないこと
きちんと線を引ける人間らしい

五条は心の中だけで評価を一つ修正する
悪くない…少なくとも、人の傷を面白半分で覗くような男ではない

向こうの部屋では、浅葱が穏やかに会話を聞いていた
必要以上に口を挟まない
孫がどんな表情で話しているのか、それだけを静かに見守っている

『あの…ほんとに、今日は、お時間を作っていただいてありがとうございます』

男は軽く頭を下げる
「こちらこそ…正直に申し上げると、お会いするまでは緊張していました」
『私もです』
紅海が苦笑する
その笑いにつられるように、相手も小さく笑った
気まずさのない、静かな空気が流れる
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