第36章 お見合いとデート
街は穏やかな賑わいに包まれていた
紅海は待ち合わせ場所へ向かいながら、小さく肩を落とす
『悟、ごめんね』
お見合いとはいえ、紅海は監視対象になっていて、
だからと言って、それは浅葱にも秘密だ
たまたま行く方向が一緒だったとしか言えない
紅海は隣を歩く五条へ目を向ける
『本当は他にもやることあるでしょ?』
五条は前を向いたまま答えた
「別に…」
いつもの軽い声だった
「あそこの店の甘味、食べてみたかったんだよね~」
それだけだった
紅海は苦笑する
『……そっか』
それ以上は言えなかった
私のお見合いなんか付き添ってもらって
きっと迷惑だよね…そんな考えが胸をよぎる
けれど口にしたところで、五条は笑って「気にしてない」と返すだけだろう
だから何も言わなかった
やがて目的の店が見えてくる
落ち着いた和食店
暖簾の奥には手入れの行き届いた庭が広がっていた
店先には浅葱が立っている
「時間通り…遅くはないね」
『お祖母ちゃん』
「今日はちゃんとした格好してきたじゃないか」
『だから、その言い方やめてよ』
浅葱は満足そうに頷く
そして五条へ視線を向けた
「今日は送ってくれたのかい」
「いや、ちょうど近くまで用事がありまして…紅海が店の場所がいまいち解らないって言うもんで」
五条は自然に笑う
「じゃあ、ここで」
軽く頭を下げる
「悪かったね…」
「いえ」
浅葱はそう言うと、紅海の背中を軽く押した
「さ、行くよ」
『わっ…』
監視対象であることなど知らない浅葱にとって、五条は気を利かせて送り届けてくれた同僚でしかない
紅海も小さく手を振る
『悟、ありがとう』
「はいはい、いってらっしゃい」
いつも通りの笑顔だった
二人が店の奥へ消えていく
その姿を見届けると、五条はコッソリと店先に向かう
そして店員が静かに近付いてくる
「五条様ですね、お待ちしておりました、お部屋はこちらへ」
伊地知が事前に手配していた個室
店の配慮で、お見合いの部屋とは襖一枚隔てた隣室だった
「ありがとうございます」
部屋へ入り、静かに障子を閉める
湯飲みへ温かいお茶が注がれた
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」
「はーい」